第23章 終わりの足音とケーキ

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第23章 終わりの足音とケーキ

朝食は質素だが美味しかった。偶にカフェを荒らされたりしたらしい。 「どうにかこの状態を乗りきらねぇと……」 チャーリーが呟いた。彼も初めての経験だ。 「大丈夫よ。もし来たら私が抵抗するよ。こう見えて武術やってるから普通に強いよ」 ミスズが拳を交互に突き出す。 「そういうのって効くのか?」 「みんな槍玉でした。調べた限りでは」 マサキは徹夜して調べたらしい。目の下にはクマがあった。 「ここが見つかる前に……」 「暫く出ちゃダメよ。市民はピリピリしてるから」 「はーい」 小学生のような返事で済ました。もうやる気が出ない。 折角の異世界だと言うのに。 ──2070年6月28日(土) 岩のように佇んだ日々。取り敢えず風穴が空く。 「お待たせ!誕生日のケーキよ」 今日はメイの誕生日。 「誕生日は盛大に祝え!どんな時でも」 お決まりのチャーリーの名言。迷言かもしれないが。 彼女が十七と象られた果物に目を輝かせる。 「私、スイーツ大好きなんです!ありがとうございます」 「誕生日おめでとう!」 クラッカーを鳴らす。どんな時でも誕生日は盛大に祝う、一つの教えだ。 ──2070年7月1日(火) 目覚めた。端末の電波で気付かれるので殆ど暇だ。そう、僕らは迫害されている。 鎖国状態に入り、海外からの物資が皆無。そして絶対王政が始まった。選挙で選ばれた代表だから何も言えない。 支持しない者は刑務所行き。特別警察が街をしらみ潰しに回る。 撃たれたら現世に戻らなければならない。あっちの世界で生まれ変わるのだ。 折角手に入れたハッピーエンディングが反転してしまう。しかし物語にオチは付き物だ。 待て、今日はマナの誕生日ではないか。あと一ヶ月早かったらちゃんとパーティーが出来たのに…… 「小野寺、誕生日おめでとう!」 「しっー。大声出すと捕まっちゃう」 窮屈な地下室生活は飽き飽きだ。矢も盾もたまらない状況の終わりは見えない。 「隔靴掻痒ですね」 そこでミスズが舞い込む。 「大変よ、アラン姉さんが居なくなった!」 「えっ?」 遂に戦いの始まりか? そんな時でも呆然とチャーリーは本を読んでいた。 「チャーリーさん!」 あの時の笑みを浮かべる。黒幕なのか? 「ヤバイな、俺が行く」 彼は立ち上がり、地下室を出ていく。特殊能力があるなら大丈夫だろう。 彼が腰を上げたと同時に目に入った。 "宮沢賢治全集" 「あなた達はここで待ってて!」 「はい!」 彼らは出ていった。宣戦布告の合図だ。 「これって……」 「宮沢賢治じゃん、ってことはチャー君仕組んでたってこと?」 「特殊能力使えるもんね」 僕はコンクリートの天井を見つめる。変哲もない起き抜けに溜息を吐く。 「待って、足音がする!」 僕はツヨシの後ろに寄る。 「おい、何やってんだよ!」 「怖いって……」 「まぁ怖がるなよ。俺らには絆がある」 そう言う彼の背を震えていた。 靴音が止まる。それは革靴の音。 「失礼します!ジュンと申します」 「うわっ!」 僕らは尻に帆を掛けて逃げる。 「驚かないでよ、知ってるでしょ?」 写真大会の時の人だ。 「あ、あの人か」 「よろしくね。君達を守る為に配属されたの」 「あ、宜しくお願いします!」 「命を賭して守るよ」 頼りになる。彼のお蔭で僕らは助かった。 「ふぅー。安心していいよね?」 「もう大丈夫よ」 ──2070年7月11日(金) チャーリーとミスズが戻ってきた。かなり窶れていた。 「アラン助けようとしたけど捕まって……」 「労働させられたんだけど、頑張って逃げ出してきた」 拍手で讃える。凄いことだ。 「僕が少年達を守ってます。安心して下さい」 彼らはそのままベッドに倒れ込んだ。 「僕は分身できるの」 ジュンは体を揺らして、"もう一人 "を出した。少し薄く見えた。 「原子の量が半分になったの」 「凄くね?」 「皆さん、ストレスが溜まってますよね?いっそのこと海に行きましょう!」 画期的な提案、しかし行けるのか? 「海外で荒れていない海に行くのです。モグラ作戦で」 彼はコンクリートの壁に掌を付けた。その途端、壁は崩れて、土が露になり、どんどん掘られていった。 「三人とも超能力者なのね」 「海って……嫌だよ私」 そう断ったのはサラ。その理由を悟った。 彼女はAカップもないのだ。恥ずかしいのだろうか?男には分からない。 「行こうよ、折角だし」 メイが手を引く。 渦巻いた土が見える。そして海までのルートを開けた。 「どうぞ!これで人の目に触れません」 市民に会ったら指弾されるだろう。土の中を通ればその心配はない。 「ありがとうございます!」 土の中を抜ける。洞穴が続いているような感覚だ。 「ストレス発散しようぜ!な?」 あんなにサラを嫌っていたケンリュウも背中を押す。 海に続く道を通り終える。 「楽しみましょう!」 ジュンは手首を回して穴を戻した。凄い能力だ。 「ここってアニメの世界みたいだな!」 僕らは更衣室に向かい水着姿になる。貧弱な体を露にするのに抵抗があったが、マサキも同様だったので吹き飛んだ。 晴れた海が見渡しても見渡しても絶えない。絶景だ。 辺りには沢山の人がいる。あの人達は呑気な生活を送っていると思うと羨ましくなる。 女子が出てきた。水着姿に沸き上がる感情を押さえ込む。本当に画になる姿だった。 「みんな大きいな」 「やめろお前」 鼻の下を伸ばすツヨシに釘を刺すケンリュウ。 「蛋白質やビタミンなどを摂取することや、ストレッチをして血行を良くすることがバストアップのコツです」 「やめろって」 なんだかんだ僕らは笑えている。我が世の春を謳歌しよう!
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