第26章 危急存亡と君

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第26章 危急存亡と君

──2070年7月15日(火) アランとチャーリーの体力が概ね回復した頃、悲劇は訪れた。 呆気なく捕まってしまった。抵抗する間も無く。あの頃に戻りたい。 今は輸送車の中。隠れていた僕らを捕まえて、鬼の首を取ったように喜ぶ警察。 あんなの警察ではない。全て洗脳されているのだ。訳の分からぬものに。 やっぱり現実も異世界も変わらないんだな、この不条理さは。 「降りろ!」 防弾チョッキを纏った警官は僕らに手錠をはめる。 犯罪なんて犯していないぞ!沸き上がる感情があった。 「ふ、ふざけんな!」 ケンリュウはいきり立った。暴れる彼を数人がかりで押さえ付ける。 「俺らは何もやってないぞ!」 そんな抵抗も灰燼に帰した。大人しく謀反者の収容所に入れられる。 中には数人が襤褸を纏って生活していた。みんな同じ心境だ。 「服を脱げ、着替えろ!」 その場でだ。プライバシーの欠片もない。 「無理です」 マナが震えながら言う。守ってあげたい。でも無理だという歯痒さ。 「逆らうもんなら撃つぞ」 銃を向けられる。銃口はやけに大きく見えた。 「お前らの魂胆が理解できん、俺らはツアー客だぞ!」 「上官からの命令だ」 冷徹な言葉に正気を失う。変な笑いが出てきた。 「俺たち、どうなるんだ……」 「安心しろ、俺の能力で……」 「やめなさいチャーリー。まだ完治してないでしょ?」 何も話す気が起きない。色を失った僕らの未来は死体のようだ。 冷たいコンクリートを見つめる。何の気力も起きない。 「ここから出ろ!俺に付いてこい!」 命令通りに従う。一日前に戻りたい。 「ミスズさん居るかな?」 そんな声が聞こえた。ユリの声だ。 「何でそんなにポジティブ何だよ、」 「チャーリーがいるから安心よ」 「ここを掘れ、そして耕せ」 「はぁ」 魂の抜けた謀反者達は農具を握る。名前が出てこない(多分鍬だと思う) やけに寒い。ここには太陽が出ない。人工的に雲が厚くなっているらしい。 「へっくしょん、寒っ」 鼻水を啜る。謎の寒さに吐き気が催される。 食事はパン一つ。あんな労働の対価に満たない。この世界は地獄だ。 「これは戦時中のポーランド。強制収容所です。逸早く逃げ出さないと……」 「早まるな、俺が王手掛けてやる」 チャーリーは自信満々だ。本当に成功するのか? ──2070年7月25日(金) 恐ろしいことに慣れてしまった。メイも食事を欲しがらなくなった。最初のうちは、雑草を調理していた。しかしもう気力が完全に萎えたのだ。 毎日無言で耕す。一日パン三個。零下何度かの寒さになるときもある。マサキが体感温度を教えてくれた。 パンは、人数が多いから簡易的な物になるのは分かる。しかし寒さは狂気だ。 「おい、チャーリー、本当に助けてくれるんだよな?」 サラが憎しみを込めて言う。 「あぁ。助けるさ。俺の能力見とけ」 彼は指を柵の奥の森林に向ける。そして柵の鍵に向ける。 鍵は爆破した。大勢の樹が枯れた。その代償だとしても虚しすぎる。 「逃げようぜ!」 チャーリーは一目散に走る。僕らも駆け出す。他の人達もそうだろう。 「殺すぞ!」 警官が弾を放った。彼の胸に当たりそうだ。 「上等だ!」 彼の体から得体の知れない物体が飛び出す。それらが数人の警官を覆う。 片手を伸ばし、DNAの螺旋構造を放った。 筆舌に尽くし難い。そんな光景が眼前を囲う。 パーン、乾いた音が鳴る。 それと共に倒れる身体。 彼は後ろから撃たれたのだ。かなりの致命傷だ。 それに激昂したジュンとアランも能力を野に放つ。 警官は吹き飛んだ。 ある警官が身体に何かを押し付けた。そして怪物になる。 もう訳が解らない。僕は顔を強張らせた。 その怪物が炎や滝を槍玉のように扱う。それにアラン達は完敗してしまう。 ──2070年8月6日(水) あれからアラン達と合っていない。隔離されたのだ。 僕らは飢餓に苦しみながら働く。ケンリュウは昨夜、有刺鉄線の施された柵に飛び込んだ。伸るか反るかの決断だ。 まさに、"自由然らずんば死か"の状態だ。ここで逃げ出したら自由が手に入るが死ぬ確率の方が高い。 しかし、こんな世界で生きていても価値がない。現実より辛い。 彼は見事に越えた。田舎時代に培った脚力が実を結んだ。 その後すぐに連れ戻されたが。 常にお腹が鳴る。恥ずかしさも麻痺してきた。 もう少しで一ヶ月。風呂なんて以ての外。 メイが倒れ込む。 「大丈夫?」 周りの人も駆け寄る。 「もう無理……」 何もしていないのに食らった鉄槌。現実も異世界も同じだ。何度も言うように。 メイは数時間眠って目を覚ました。 「ケーキ食べたい……」 「そんなの無理だよ。この世界じゃ」 僕は汗を拭う。寒さにも慣れてしまう。 「エイジ……君?」 「何?」 「よく頑張ってられるね」 「えっ?」 「頑張り屋さん。偉いね!」 彼女に褒められると何だか笑顔になる。 「それなら現実に戻っても大丈夫さ」 「何でよ?戻るでしょ?あら……」 「安楽城って言えてないよ!言いにくいもんね」 「でも戻るでしょ?」 「いつかね」 曖昧な返答が気になるが詮索しても仕方ない。早く逃げ出さないと。
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