第28章 橘ケンリュウと喪失

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第28章 橘ケンリュウと喪失

俺は橘ケンリュウ。珍しい名前とよく言われる。漢字で書くと"剣琉"だ。親が沖縄出身だから付けられた。 去年、埼玉に引っ越してきた。やっぱり何も無いところだなって思ってしまった。沖縄よりは。 幼い頃から習得した剣道、武術、水泳でスポーツは万能、そして勉強も上位の方だった。 お蔭でクラスではいつも頂点。何度も告白されたこともある。全て断ったが。 偏差値六十五くらいの高校に入学。普通の雰囲気で何とかやれていた。 しかし、生きる希望が無くなっていった。自分が何でも出来てしまうのですることがない。贅沢な悩みかも知れないが。 将来何になるかの発表。大勢の前で大言壮語を吐いた者勝ち。 俺は何も思い付かない。そのせいで一時間黙り込んだ。 自分は何になれば良いのか?夢がない。 毎日自分への問いに打ち拉がれていく。 ──2019年11月11日(月) 理系文系の選択の日。これによって受ける大学を決めておかなければならない。 俺の高校は気が早い。その癖に進学実績はいまいち。 取り敢えず理系を選んだ。目指す大学はT大。特に意味はなかった。 茫然とする毎日に飽き飽きしてきた。 ──2019年12月上旬 だんだん影が薄くなっていく気がした。最近勉強が捗らない。 成績は学年ワースト二位まで下がり、先生からも心配された。 「おい、ケンリュウ。どうしたんだよ!」 「最近勉強出来てなくてさ」 自分でも理由が解らない。 どんどん自分が廃れていった。これが栄枯盛衰の怖さだ。 毎日が絶望に感じた時、ある男が立ちはだかった。 「君はもう死んでいる!」 人の多いカフェで話す内容ではない。それに北斗の◯のネタではないか! 「実はね、沖縄にいた頃に蝮に噛まれたでしょ?」 「あ、ありましたね」 「その時に、一度記憶が飛んでてね。その時点で死んでたらしい。しかし成仏出来ずに今もここにいる……」 「あの、気持ち悪いのでやめてもらえませんか!」 ラノベのようだ。本当に非常識な男だ。チャーリーというらしいが。 「違う、君に頼みたいことがある!」 その任務を終えたら成仏できるらしい。やってみることにした。 一人の内気な少年を異世界に連れていき、人格を変えるというミッション。楽しそうだ。 自分が死んでいたなんて信じたくないが、希望もない道を行くよりは価値がある。 その少年は篠田エイジという。同年代だ。 内気でコミュニケーションが取れなくて……でも勉強は中途半端に出来て……っていう俗にいう陰キャラだった。 そのミッションを遂行していくに連れて、自分が生きているように思えた。やりたいことも見付かった。 成仏したくない、と思えてきてしまった。 チャーリーから聞いた。異世界は"あの世"で、完遂後に住むことになるとのこと。 実質異世界には住めるが、最後にエイジとお別れをしなければならない。 彼もかなり正義感が強かった。そして面白かった。楽しい日々と比例して絆も築かれた。現世に戻って普通に暮らしたい。そして偶にエイジ達と会ってカラオケでもしたい。 でもそれは叶わぬ夢だ。何であの日蝮に噛まれたのだろう。 最後は九月二十四日。今の酷い状況もチャーリーが創ったミッションらしい。 彼は読んだ本を再現することができて、人を自由に動かせる。
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