第2章 純白の雪、出会い

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第2章 純白の雪、出会い

移った車両は沢山の椅子とデスクが並べてある教室みたいなものだった。 そこには数人の同年代と思われる制服を纏った人がいた。男女比は五分五分くらいか。 中にはファーストフード店の制服を着た人もいた。バイト帰りだろう。 「みんな揃いましたね〜いやぁ大変だったー」 全く状況が理解できていなかった。他にも異世界旅行に誘われた人たちがいるのか。 「その二人はそこに座って」 支持通りに座った。一番端の席だ。 「これから異世界旅行についての説明を行います」 チャーリーは書類を広げた。 「まず、この旅行のコースの悪いとこ、いきなり見知らぬ駅を設置して迷わすって本当に怖かったよね?本当にごめん」 いきなり口調が変わった。 「君達は日本にいる国民の中から偶然選び出されたメンバーなの。そこは誇りに思ってね」 ますます謎は深まる。 「そしてこの旅行は二〇六九年の異世界・ニライカナイのエルドラドという都市に行きます。全過程は二七九日間です。その中には移動に掛かる七日が含まれます」 待て、長すぎる。 「大丈夫です。安心して下さい。戻る時には時間を戻します。なので皆さんは二〇一九年の十二月二十日に戻って来ることになります」 納得だ。そもそも夢にしか思えないのだが。 「いや、今日の電車の遅延は私の仕業なんです。こうやって見知らぬ駅に電車を狂わせて寄らせるから」 そうだったのか。みんなも呆気に取られる。 「多少の雪なんかで遅延しませんよ。本当にごめんなさい!」 まぁ異世界に行けるならいいか。他の人に多大な迷惑は掛かっているが。 「異世界では様々な体験をします。また詳しいことは後で説明します。そして皆さんは多分とても空腹だと思います。なので食堂に移動しましょう!その時に自己紹介し合いましょう」 僕らはまた他の車両に移る。 「楽しみだね、エイジ君?」 「いやぁ本当に信じてるの?」 マナは顔を紅潮させる。色気が増す。 「食堂はここです!」 そこは縦に長いテーブルに沢山の食べ物が並ぶ、とても電車の中とは思えない場所だった。 「バイキングです。好きなの食べて下さい。そして食後には部屋を案内します」 僕の隣に彼女は座る。殆どの人は他のグループと間隔を空ける。 僕は積極的にいくことにした。 「あの、僕は篠田エイジです。高一です。音楽が好きですが囲碁部に入ってます。宜しくお願いします!」 彼らは僕の方を見た。それに伴って自己紹介が始まった。 僕より背の高そうな女子が 「安楽城(あららぎ)メイです。調理部です。宜しくお願いします!」 ファーストフード店の制服を着ていた。モデルのように美しかった。 普通の典型的な男子は 「針井ツヨシです!バスケ部に入ってます。よく友人からポッターと呼ばれてます」 如何にも賢そうな男子は 「橘ケンリュウです。趣味はクロスワードと剣道です」 全然、名前負けしていない。 金髪に染めた眼鏡の女子は 「川端ユリです。小説書いてます!宜しく!」 ヘッドフォンを常に首から提げる女子は 「音西サラです。軽音楽やってます」 「小野寺マナです。陸上やってます。県一位です」 一発で負けた。そう、僕は誇れる体力なんて持ってない。運動すらできないのだ。 なんだ、このメンバーって各才能の人たちが集められているのか? 少し劣等感を抱いた。 最後に残った気後れしてそうな男子 (こんなことを言うとフラグになるのだが) 「上白石マサキです……宜しく」 最後の方は聞き取れなかった。声が小さいのである。 パードゥン?と言いたいところだがやめておいた。 「改めて。私はチャーリーと申します。皆さんは十六歳くらいでしょうかね。私は十九歳です。出身が異世界なので義務教育なんてありませんでした」 異世界は義務教育がないのか?ホワイトな世界だな。 「何かあれば私にお願いします。十九年間を超越した知識を持っています」 待て、車掌すらも有能なのか。有能でなければ安心できないのだが。 「チャーリーさん!どうやってこの列車は動いてるの?」 ユリが聞いた。好奇心旺盛が際立つ。 「自動運転ですよ、ただ動くように決まっているから動くだけです」 えっ?と思った。単純なことだが言われてもピンと来ない。 「なんか銀河鉄道の夜みたいですね」 彼女は笑った。僕はそれを読んだことがないので理解出来なかった。 「銀河鉄道ってあれか?あの宮崎賢治の書いたやつ……」 ツヨシが呟く。 「宮"沢"賢治ね。混ざりやすいよね」 彼女は笑って返す。その笑顔が素敵だ。 僕の心が動揺する。このメンバーでやっていけるか。 まともに話せる力がない僕でも輝けるか… もう既に彼らは打ち解けている。 そこで僕は考えた。適当に注いだスープを啜りながら。 「ねぇ、みんなどこから来たの?」 「俺は東京から」 「私は千葉から」 「安定の埼玉から」 そう、どれも関東に集中している。それに僕の神奈川を合わせて四箇所しか出ない。 「ってことはみんな二人ずつ来たの?」 頷く。 「なんか奇跡みたいだね」 僕は笑った。本当はこの旅行のシステムを悟ってしまったが、言っても楽しくない。 「そうだよな、俺。ほんとに暗い駅で一人って怖かったもん」 同意の声が上がる。 その後は自然に駅の状態とか、そういう話になった。 「俺の着いた駅、マジキモかった。ゴキ○リ、うじゃうじゃいたもん」 「私の駅なんて海が近くて怖かったよ。海が睨んでるようで」 そう答えたのはユリ。文学的な例えをするなぁ。 話に盛り上がり、飲み物はすぐに空になった。しかしあまり食べていなかった。 みんな眠い目を擦る。腕時計の針はケーキを区切るような形の二十二時を差す。 殆どの食べ物は残ってしまった。でもそんな事気に止めず部屋に案内された。 「一〇六号室は篠田君ですね?中に荷物を置いて着替えて下さい」 「風呂ってどこですか?」 僕は汗ばんだシャツをすぐに脱ぎたかった。 「食堂の車両にある温泉です。今日の過程はもうないので利用しても良いですよ、但し着替えてからですよ」 「分かりました!」 部屋の中はとても充実していた。一人暮らしの一色が揃っている。 スゲーと感動する。僕は一度も自分の部屋を持ったことがなかった。 コンセントを見つけた。急いで充電する。スマホは充電切れしてから数時間経っていた。 電源が入る。ロック解除すると、不在着信が二十件も来ていた。 これは親のものだ。何時間も帰って来ないことを心配していたのだ。 異世界に戻る時に時空を戻して貰えるので「異世界にいってくる」なんて馬鹿な返答で済ませた。 ベッドに置いてある部屋着に着替える。サイズは丁度良かった。一六五センチだからMが着れるくらいだ。 備え付けのタオルを見つける。そして僕は食堂の車両へ駆け出した。 温泉の中はとても心地よかった。とても眠かったのであまりいれなかったが。 頭にタオルを巻いて脱衣場を出る。 すると食堂には明かりが点いていた。 「食べ物を残すなんて許せません!」 どうやら残った物をメイが食べているようだ。それに対しチャーリーは、 「大丈夫ですよ。これらは元の食材ではなく培養しているのです。ですから直接食べ物を残す行為に当たりません」 「いや、料理をしてくれた技術に感謝しなければなりません!」 なんだ。いい人ばっかりではないか。 僕の胸は高鳴る。 大丈夫だ。自分。 その時、列車が動き出した。汽笛を上げて。 「発車します〜」 ってことは今までずっとあの気味の悪いとこに留まってたってこと? 僕は部屋に戻った。生乾きの髪をタオルで擦る。 小さい窓があった。そこを見つめる。 白い雪が降っていた。何の紛れもない白だ。 この列車に乗り込むまでは多少の雪が降っていただけだった。 雪が降ると憂鬱になった自分だが、今だけは雪が好きになれそうだ。 誰かと話したい。部屋にテレビはあるが、金曜の映画番組は疾うに終わり、十八歳以上の番組にバトンタッチしていた。 部屋を出た。鍵がある。ホテルの部屋のようだな。 確か向かいがマナの部屋。 ノックする。この感覚は忘れられない。 例え夢だとしても今は幸せだ。 部屋着に着替えた彼女が開ける。 「ちょっと来て〜この番組超面白い」 「分かった、いくよ―」 彼女に無理矢理手を引っ張られたので貧弱な手が折れそうで怖かった。 それはよくある恋愛ドラマだった。 「この三角関係ってドキドキしない?」 「恋愛自体したことないので分からないんだけど……」 「じゃあ私と恋愛する?付き合おうか?」 待て待て待て。彼女はとてもハイテンションだった。 「待って、落ち着こ」 「私も付き合ったことないよ」 「でも、あの駅の時、支えてくれたのありがとう。あれで惚れちゃった!」 待て。話が早すぎる。 「えー、私のこと嫌い?」 「違う。早すぎるって」 「夜が明けるまで話そ」 「まぁいいけど」 こんな体で初日から徹夜する羽目になった。僕自身女子と何の関係も持ったことがなかったので好都合だ。 ドラマを付けたまま、彼女は冷蔵庫へ向かった。 「この飲み物、無料なのかな?」 「一律無料だから大丈夫でしょ?」 「なんか心配……」 「じゃあ聞いてくるよ」 僕は外へ出た。チャーリーの部屋は一一〇号室だ。 「すみません!」 ドアをノックする。 「開けていいよ」 鍵は掛かってなかった。少し重い扉を開けた先には沢山の鉄道模型が並んでいた。 「えっ?」 「ごめん、趣味の領域。あ、大事なこと以外謙譲語使わないよ」 「あ、はい」 その方が話しやすい。 「用件の方は?」 彼が線路の模型を弄る。とてもリアルだ。 「部屋の冷蔵庫の中の飲み物って無料ですか?」 「あー無料だよ。ケーキも入ってたでしょ?あと、ビールが飲めるの。異世界の法律ではもう成人だから」 「えっ?」 「ビールといっても異世界のは炭酸が少し凝ったやつ。アルコールは少ないよ」 「ありがとうございます!」 僕は扉を閉めた。ビールが飲めるのか。子供騙しが納得いかなかったが。 「あ、無料なの?」 「ケーキとビールもね」 「えっ?ビール?」 「異世界の法律では飲めるの」 彼女はコップにビールを注いだ。そして飲む。 「まっず、ただの炭酸じゃん」 「アルコール入ってないからね」 「ケーキは?ワンホールあるけど食べる?」 「別にいいよ」 ドラマはもう終わっていた。テレビは堅苦しいニュースを報道していた。○○政権は終わりだとか。大体は知っていたが異世界に来てまで考えたくなかった。 「テレビ消そ、このテレビって日本の?」 「異世界のじゃないみたい」 「私は陸上で忙しいからあまりテレビ見れてないんだよね。人気俳優も知らないし」 「大変だね」 さっきのハイテンションからは思えない事実だった。 「僕もテレビは見ないよ。芸人とかつまらないし」 「芸人で稼ぐならちゃんとやれって話だよね」 ただ愚痴っているだけだが楽しかった。気が合う気がする。 彼女は皿のケーキを頬張る。 僕は窓の方へ振り返る。 「雪降ってるよ」 「え?ほんと?」 「大分前からね、駅の時から降ってたよ」 「怖くて気付かなかった……」 「あれは本当に怖い。都市伝説じゃんってね」 「○さらぎ駅みたいな?」 「ほんとそれ」 でも今は助かって、仲間も増えた。 しかしこれは異世界旅行会社の仕業だとは。 「ほんとに泣いてたよ私」 「当たり前だよ」 「顧問に叱られた時の次に怖かった」 「顧問どんだけ怖いの?」 いわゆるスパルタ教育ってやつか。 「言葉に表せないくらい」 「相当だな」 「次、県大会行かないと退部させられるって」 「それ今ケーキ食ってるやつ言うことか?」 「いや、異世界だから気を緩ませても良いでしょ?」 いや、さっきみたいに強引に引っ張られ告白されるのはやめてほしい。 「実は私、もう部活辞めたいんだ……」 「えっ?県大行くんじゃなかったの?」 「もう耐えられなくて……」 「分かるよ」 僕は中学の頃、周りに抜かされて部活を辞めた。その時の悔しさは今も残っている。 「みんな私より普通に早いよ」 「分かる分かる……」 といってアドバイスできるわけでもない。 「とにかく、異世界だから楽しもうよ」 「そうだね。僕も囲碁部でうまくやれてなくてね」 「そんな事吹き飛ばして"あれ"やろうよ」 一瞬疚しいものを考えてしまったが正気に返る。 「これ!大富豪!今日買ったの!」 なんか聞いたことはある。クラスの陽キャラさんが熱いバトルを繰り広げるゲームだ。 「えっ?やり方分からないよ」 「私も。一緒に解説読もうよ」 その時点でもう二十四時を過ぎていた。 「えっ?解説意味不なんだけど〜」 「スマホとかないの?」 「あっ、そうだ」 僕は部屋からスマホを取ってくる。充電満タンだ。 案の定、親からの電話の通知は来る。 「これってどうした?」 「普通に雪で帰宅が困難で一週間くらい学校に泊まるって」 そうか。一週間も経てば異世界に到着し端末が貰える。 僕はかけ直した。異世界に行くって言ったのは頭が混乱していたせいだと。 何とか大丈夫そうだ。 「そうだ、異世界から帰った後も連絡取りたいからRail追加して良い?」 (Rail→LINEのこと) 「あ、いいよ」 怒りの捌け口としていたステメを高速で消す。 彼女のトプ画は部活の仲間と撮ったと思われる画像だった。ユニフォームを着ていたからだ。 その顔はアプリで加工されていた。正直彼女は綺麗なので加工なんてしなくても良いと思う。 「えっ?このトプ画何?」 「囲碁のゲームアプリのキャラ」 陰キャ臭漂う。 こんな僕に彼女は勿体ない気がする。告白が本音なら。 まぁそんな事はないと思うが。 そんなことしているうちに彼女はワンホールケーキを平らげた。 「えっ?早くない?」 「私、こう見えて結構大食いなの。自分で言うのも恥ずかしいけど」 「少食よりはいいでしょ」 僕は少食だ。 自分の胃の小ささに苛立つ。僕があのケーキを食べたら何時間掛かったか。 気づいたら彼女は眠っていた。鼻に生クリームを着けて。 僕も眠たくなってきた。なので部屋に戻る。大富豪のトランプが散らばっている。 引き返して片付けた。序でに鼻のクリームも拭いた。 「失礼しました」 小声で呟いて部屋に戻る。汗ばんでいた。 スマホを開くと彼女のRailが。 「鼻拭いてくれるの、優しいね」 試してたのか… 「今度はベッドまでお姫様抱っこ!」 いやいやいや、そんなの出来ない。 「ハイテンションすぎ。別にいいけど」 僕はそう返した。そして眠りについた。 ── 2019年12月21日(土) 朝のアナウンスの爆音アラームで皆7時に起きられた。 食堂へ向かう。 今日はバイキングではなくパンとスープとサラダか。 「異世界に行くまでは自由に過ごしても構いませんよ!」 チャーリーが言う。異世界に行ったら忙しくなるのか? 窓からは朝の日の目が差す。とても気持ちいい。 「只今は上空を飛んでいますが明日は時空間を飛びます」 「えっ?マジ?」 結局全て事実だ。どうせ夢だろうと思っていたのが一晩跨いでしまった。 こんなに夢現の状態は続かない。異世界に行く実感は全くないのだが。 まだ異世界に行くことに納得しない自分がいた。 「ほんとに行くんだね、異世界」 マナはパンを噛りながら言う。 「実感が全く無いんだけど」 「それなぁ」 そんな僕らを朝日は照らす。
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