第29章 過去とのチェイス

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第29章 過去とのチェイス

──2070年8月12日(火)、一方エイジ まともに生きていれば今日はお盆で帰省していたはずだ。 最近は自分が抱えた厭世観が今の状況を生んでいるのでは?と罪悪感に苦しめられている。 まだまだ続く地獄の毎日。帰る日を延期するという情報も出てきた。逃れられそうにない。 僕らは政治犯だ。政治に都合が悪いという理不尽な理由で檻に閉じ込められている。 感覚は既に死んだ。寒いも空腹も感じない。 今思う、本当に第二次世界大戦の頃の人々は辛かったんだろうな。 閉塞感は僕らの記憶を上書きしている。毎日今までの異世界での記憶は踏ん張っている。 そんな時、銃声が鳴り響く。日常茶飯事だ。 誰かが逃げ出した。そして大人しく連行され現世へ送られる。あの人達とは宇宙を何周しても会えない。そんな別れが毎日やって来る。 最初の頃持っていた反骨精神は疾うに砕け散った。しかしそこに感化された。 警官は堂々と怪物に変身する。そうだ、あの時のベルトがあれば…… するとこめかみ辺りに飛んできた。 「俺にやらせろ」 ツヨシが名前負けした弱った声で精一杯叫んだ。 「いいよ」 「変身!」 疾風が巻き上がる。それに怪物達は動揺する。特殊スーツを纏ったツヨシは仁王立ちで立っている。 「なんかこれすげぇ。力が湧いてくるんだけど」 その勢いで怪物達は吹き飛ぶ。やはり使う人の能力も関わるらしい。 最終的に何人かの怪物は爆発した。仮○ライダーの戦闘シーンを締め括るように。 しかし、柵を破ることは出来なかった。 ──2070年8月13日(水) 午前一時、漸く眠りにつこうとした時、サイレンがいきり立った。 ゲージが破壊されたとのこと。これは千載一遇の大チャンスかもしれない。 「やったぜ。早く抜けようぜ」 ツヨシ達と手を合わせる。 サイレンの音に反応した人達は柵を破って抜ける。チャーリーもアランも見かけた。 「俺ら抜けるぜ!」 「僕らは自由だ!」 それは革命運動のようだった。輝く夜月は清かに雲に包まれていた。 暫く大勢で森を抜ける。本当に沢山の人達が囚われていた。 まだ喜びに心が追い付いていけない。 森林とコンクリートの切れ間、僕らは快哉を叫ぶ。 「俺達の勝ち!何で負けたか永遠に考えといて下さい」なんてギャグも抜かした。 暫く待つと、全員が揃った。そこには煤だらけの顔や継ぎ接ぎだらけの襤褸が並んだ。 「やった!僕らはあいつらに勝ったの!」 勝利の日、八月十三日。これも一緒忘れられない。 その日は隠れ家に残り、温かいスープを啜った。何日ぶりだろう。 「奴等はまだ僕らを狙ってる。安心出来ないよ」 「ってかお前が一番喜んでたよな?」 「明日から移動生活です」 「えーっ」 閉じ籠るよりはマシだ。異世界は最後まで全うしよう。 みんなで抱き合う。ツヨシが思ったより痩せていて(うら)悲しい。彼の質量が減ったのだ。筋肉自慢していた癖に。 「ホントによかった~」 「死ぬかと思ったよ」 サラも何とか馴染めている。それに僕は微笑む。 「おいエイジ、何ニヤついてんだよ!」 「何もしてないって」 「そもそも告ったのかよ!」 マナがこちらを向いて微笑む。今はできそうだ。 胸が高鳴る。今まで乗り越えた僕らなら友達以上のはずだ。もういけるだろう。 それに微笑んでくれた。条件は揃っているはずだ…… 無理だ。僕に勿体ない。こんな頼りなく心配性な僕に彼女は眩しすぎる。 「早くいけよ!」 「急かすなよ!」 結局、その日は告白出来なかった。どこかに後でもいいだろうという甘えがあった。 自分が情けない。地下室の冷えた屋上を見つめて自責する。 夜が明ける。こじんまりとしたカフェにも朝日か照らし込む。 「朝日はこうでなくちゃ」 「もう荷物詰めて行かないと!今日はグリッターまで行くよ!」 「えっ~?ゆっくりしたいです」 「いつ来るか解らない。自由が欲しがったら動かないと」 早朝から山を越え、谷を越え、渓流を越えた。 海をフェリーで渡る。この際には変装をした。 「覚えてる?私達付き合ってたよね?」 突然横にユリが入る。 「うん。そういえばあの時も変装したなぁ」 異世界に来てから、話すコツが掴めた気がする。気のせいかもしれないが。 「私飽きやすくてね。彼氏も変えたんだよ」 「えっ?」 そう、ツヨシともケンリュウともマサキとも付き合ったらしい。しかしどれも一ヶ月で終わった。 「そうだったの?」 「そうだよ。出来る限り色々な経験したいし」 「そうなのか……」 「浮かない顔してどうしたの?」 「いや」 自分が書店で働いていた時、彼らは女子とイチャイチャしていたのだ。無性に虚しくなってきた。
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