第3章 新世界より見る地球

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第3章 新世界より見る地球

「今日の部屋の冷蔵庫のケーキはモンブランです。是非お召し上がり下さい!」 一日一つ追加されるのか。そういえば僕の部屋のケーキはまだ食べていなかった。 「モンブラン?いいねぇ」 「一日一ケーキとか糖尿なるぞ!!」 「待ってこれって……」 ユリが察する。皆が目を向ける。 「注文の多い料理店じゃない?逆に人が食べられちゃうやつ!」 これはみんな分かるようだ。僕も幼き頃絵本で読んだ気がする。 「待って、実写すると怖いやつやん!」 「マジ?」 そこでチャーリーが挟む。 「そんなことするわけないじゃないですか?私が人を食べるとでも?」 そうとは考えにくい。 「お前って何でも文学に例えるな?」 「あと、二つとも宮沢賢治!」 「これって宮沢賢治の作品を体験するツアーなのか?」 「異世界がイーハトーブとか?」 「いやエルドラドとか言ってたよ」 議論は加熱する。チャーリーは信用にならないのだ。 「チャーリーさん、怪しくないですか?」 チャーリーは戸惑う。 「いや、そのぉ宮沢何とかって人、知りませんよ?」 知らないのも可笑しいと思うが。 「私たちはまだ信じませんよ」 「私もあなた方をまだ信頼していませんよ」 ここで対立してどうすんだ。 「まぁ信頼ってのは長い時間をかけて形成されるものですからね」 ユリがこのメンバーのヒエラルキーを支配している。まだ出会って間もないのに。 僕も頑張らねば。 朝食を食べ終わる。 自室へ戻る。テレビはまた堅苦しい政治状態を報道している。 若者の政治離れとか… 今度の選挙とか… そもそも若者が政治に近づいた(ためし)あるのかって。 世界はいつまで経っても平和にならない。 耳を塞ぎたくなる救急車のサイレン、事故や事件の報道、アフリカの深刻な水不足、そんなことばかりある。 ここでのうのうとしている日本人がいていいのかって思う。 でも僕は今異世界に行く。あっちはどうなのか。じっくり観てみたい。 「……篠田さん、あちらでみんなでRail交換するので来て下さい」 ドアの向こうから小声で聞こえた。 「敬語使わなくていいよ」 スマホを持って部屋を出る。 小声の正体はサラだった。小声というか美声だった。 この車両内にみんな座るのに丁度良いソファーとカジュアルなテーブルがあった。 「みんな、ごめん」 「良いぞ、いきなりだったし。何してた?」 「ニュース見てた」 「お前、真面目すぎるんよ」 いつも真面目と言われるのは異世界でもだ。 「いやいやいや、ニュースといっても……」 「政治とか?経済とか?」 「あ……うん」 芸能人の結婚とか……と言おうとしたが不意を突かれた。 「お前政治家なれば?」 「いや、エリートじゃなきゃいけないし……」 「決めた、お前のことセイジって呼んで良い?」 「まぁいいけど」 「やっぱ面倒だからエイジって呼ぶわ」 どっちだよ。ツヨシも覇権を握っている。 みんな腰掛けていた。スマホを片手に。 なんとなく男女で分かれている。まぁ当たり前か。 そこに覇気なくちょこんと座るマサキ。 「おい、上白石だっけ?何か喋ろうや」 「……」 「おい、息してるか?」 「……」 「Rail交換しよう」 「お、そうだな」 「グループ作ろ」 「グループ名何にする?」 「エルドラドとか?」 「ひねりがないなぁ」 「……エルドラド宮沢」 そう呟いたのはマサキだった。 「芸人みたいだな」 「いんじゃねーの」 「これにしようぜ!」 そうしてグループ名は「エルドラド宮沢」になった。ホテルの名前にもありそうだ。 その後各自で自己紹介をノートに載せた。 そこにチャーリーが通り掛かる。 「Railですか?異世界では通じませんよ」 「その後も関係が続くようにしてるんです。チャーリーさんも交換しませんか?」 彼は黙り込む。したそうだ。 「全く、最近の子はそうやってすぐに解決してしまう、あの行程(ラストミッション)を……」 「な、なんです?」 ユリが問う。れっきとした伏線だ。 「いや、何でもない」 彼は通りすぎる。 「こんな話の賢治の本、ないの?」 「アバウト過ぎるよ!」 「でもあれ完全な伏線だったよね」 「何か大きいイベントがあるんだよ」 まぁでも後にしよう。今はどんな困難にでも堪えられる絆を作るんだ。 「そいえば、今どこ飛んでんの?」 「遥か彼方上空」 「あれ?太陽が見えたよ」 一斉に窓を覗く。 「ほんとだ、太陽の周りの輪っかって何?」 「光に雲が屈折したんでしょ?名前何だっけ?」 「ハロ。月に出来るものは月暈、太陽に出来るものは日暈です」 またまたマサキが呟く。 「スゲーな、お前」 まぁ僕も知っていたが。 「そのハロってほんとに神秘的だよね?」 「ほんとね」 でもなんだかぎこちない。話題もすぐに終わる。 「あのぉ、ちょっと良い?重い話だけど…」 自信無さそうな声でメイが呟く。 「いいよ、どんなこと?」 「じ、実はあたし、高校生じゃないんだ」 一瞬驚いた。しかし珍しいことではない。高校は義務教育ではない。 「どゆこと?それ」 ユリが不思議そうな顔で問う。 「あたしの家、妹と二人だけなんだ。それで貧しくて。施設入ると離ればなれになっちゃうから」 みんなは静まり込む。 「それで,夏から学校辞めてバイトに専念したんだ」 「気の毒だね…」 「日本の深刻な貧困問題か。早急に解決せねばならん」 彼女は話を続けた。 「そして友達も仲間もいなくなっちゃった。妹も苛められてるらしい」 待て、これは同じ境遇だ。僕も小学から苛められてた。 「それ、分かるよ」 みんな分かっていた。 「つまり同じ境遇ってことか!」 「大丈夫だぞ。俺らもそう。力になるからな」 ツヨシが臭い言葉を吐く。でも綺麗事だ。 あんなイケメンが苛められる訳がない。 「お前みたいなイケメン、苛められねぇだろ?」 「俺は部長とかいろいろ就任したけど、周りからのプレッシャーで壊れちゃったんだ」 外見に寄らない過去。 「僕らは仲間だ。みんな苦しんでたんだよ」 そんなことを無責任に発していた僕。 「僕も小学から変わり者だから嫌われてた」 「そうだよ、みんな同じじゃないか!」 みんなでメイを励ます。いつか見てみたかった本当の友情。 「俺、俺たちなら何でもやれる気がした!」 あまり聞かなかったケンリュウの声。 「お前名前カッコ良すぎるんだよ」 「ふっ、綺麗事言うなよ」 舌打ちしたのはサラだった。闇が深そうだ。 「あの、言っとくけど、異世界でお前らと絡まないから」 一匹狼でキリッとした瞳。ショートヘアは玲瓏に見えた。 丸で独りで荒野に咲く花のようだ。 彼女は部屋に戻った。 「おい、あいつと来た人誰?」 マサキが手を挙げた。 「実は彼女に助けてもらいました」 「どんな風に?」 「線路歩いていて、いきなり列車が来たから戸惑って……」 さすがに線路へ出る勇気はなかったが。 「それで彼女が僕を押し倒して何とか轢かれずに助かったの」 脳内で再生出来る。ツンデレって感じか。 「それってカッコ良くね?ショートヘアだし」 「相当傷が深いんだろうな」 「まぁ俺らは俺らで全うするからな、異世界を」 オー!とみんなで声を上げた。僕はサラのことが気になっていた。 「大富豪でもする?」 「いやいや大富豪はつまらない。今はポケ○ンgoだ!」 「いやみんな持ってねーだろ?」 「みんなの絆が深まるもの、人狼とかは?」 「人狼持ってきてねー」 「普通に話してても良くね?」 やっぱりみんなと話すことで何かが癒された。 「ちょっと、聞いてもらっても良い?」 マナが出てきた。そういえば一度も話に入ってきてない。 「どうした?」 「私の陸上部、甘い物禁止なんだよ!」 不満げに言い放った。 「えっ、マジか」 「俺なんてバスケ部だったけど合間におやつ食ってたぞ」 そんな感じで悩みを打ち明けた。 「昼食のアナウンスです!食堂にお集まり下さい!」 僕らは移動する。列車の移動中はとても退屈になりそうだ。この話題は後5日も持たない。 昼も昨夜のようなバイキング。 「この列車には映画館、カラオケ、温泉、VR室など様々な設備が整っています。全てが無料でございます」 「昼食ったらそこ行こうぜ!」 昼食後はカラオケ。 男子はみんなで演歌を歌う。殆ど歌えなかったが。 女子はアイドルの代表曲を歌う。 僕は普段から音楽を聴いている。しかし、歌う勇気は出なかった。 いまいち陽の自分になれていない。 そんなことをしていたら、日は沈んだと思われる夕日が車窓から手を伸ばす。 そんな日が何日も続く。 ── 2019年12月27日(金) 異世界に到着した。どうやら時空間はとっくに飛行したらしい。 「到着するので荷物をまとめて下さい」とのアナウンス、僕は焦り始める。 このままでいいのか。最近は初めに会ったマナでさえまともに話せなくなり部屋にいる日が続いた。 理由は自分が話すことに疲れたから。他人に合わせるのに慣れていない。 これから約二七〇日、持つような気がしない。 「到着しました!順に近くの自動ドアから出てください!」 荷物は学生鞄だけ。部屋着のまま外へ出るのも恥ずかしいが。 無駄に大きな音を立ててドアが開く。うるせぇな。 僕は外へ抜ける。晴天がどこまでも続く。曇りや雨を知らない無邪気な晴れだ。 よく見ると駅のホームであった。ニライカナイの人と思われる数人、殆ど日本人のようであった。 改札にはICカードをタッチする仕組みがなかった。その代わり、通り抜けると端末の音がなるという設定らしい。 僕ら一行はなんとなくの順になって改札を抜ける。端末は持っていないので鳴らない。 駅員も把握している。 「これから各自の宿に向かいます。ツヨシ君とサラさん、モクレン館……」 チャーリーは二人ずつに地図と端末を渡す。 「その端末は既に設定してあります。この世界のマニュアルも入ってるので必ず目を通して下さい。あと、通貨は歩数計。一歩あたり十分の一円です」 ってことは十歩で一円か。 奇しくも僕はメイと同じ宿だった。 「あと、毎日朝七時にモクレン館に集合ね!寝坊は厳禁!」 あ、死んだ。僕は休みの日は十二時まで寝ている。終わった。 「これで話は以上、何かあったらチャーリーに連絡を。では、楽しんで!」 あっさり終わった。 地図通りに宿へ行く。以外と駅から遠い山奥に佇んでいた。 「ここからバスに乗って……」 見知らぬ土地を行くのは物凄く心細い。しかしメイもいる。 「篠田さん、だったっけ?」 「そうだよ、あ、あららぎさん?」 陰キャラモード発動。 「宜しく!どのバス乗れば良い?あたし頭悪くてさぁ」 「四十九系統のアラン館行きの、十五日町で降りてそこから徒歩」 「そうなの?高校どこ?」 今聞く話かよ。話を途切れさせない為に言うしかなかった。 「……聞いたことないけど頭良いでしょ?あたしなんて偏差値四〇の底辺校だったよ」 「あぁ……そう。取り敢えず行こう?」 端末の電源を付ける。目映く光る画面。 ちょうど来た電車に乗る。空いていた。 そもそも山奥まで行く人なんていないのだ。 「十五日町は十四個目の駅だって、長いね」 「まぁね」 彼女は僕の横に座る。微かに体温を感じる。 「ごめん、あたし怖がりだからね。あの駅の時なんてめっちゃ泣いたよ」 「そりゃ誰でも泣くよ。異世界なんていきなり。胡散臭いにも程がある」 「異世界信じてないの?」 彼女はいきなり僕の頬を平手で叩く。ビンタという技だ。 「いきなりごめん。夢じゃないでしょ?」 少し涙の出た目に映るのは正しい現実。信じるしかない。 「異世界で楽しく過ごそうよ!現実なんて忘れてさぁ。日本に戻ったらって考えると頭痛くなるけど」 そう。彼女も辛い思いをした同士だ。 「ありがとう」 「そいえば部活って何?」 「囲碁部なんだけど……」 「あ、よく廃部にされるやつ?」 「そうそう」 「囲碁とリバーシって何が違うの?」 「……」 そういえば解らない。囲碁自体真面目にやっているわけではない。 「何でわからないんだよぉ」 彼女に突かれる。 「マサキに聞けば?」 「そうだね」 彼女は端末を開く。Rail(ニライカナイ版)のアイコンを開く。このアプリが五十年後も現存しているのか。 「Railがまだあるってスゴくね?それに登録してあるよ」 「チャーリーさんめっちゃ頑張ったんだね」 笑い合う。いつか夢見た日々。 「どうやら、囲碁は十九×十九、リバーシは八×八のマスだって。囲碁は中国、リバーシは日本由来だってさ」 「ってことはさ、囲碁盤でリバーシやっちゃダメなの?」 「別にいいけど。結構マスが余るよね」 「そっかぁ」 彼女は天然キャラ。 「次は十五日町〜」 「ここだ!降りよ」 降車ドアの横にセンサーがあった。自動的に歩数計から引かれるらしい。 「あれ?足りない……」 その場で足踏みをした。結構恥ずかしい。 降りた先は山奥。地図通りに進んでいく。 「きゃぁ、へ、へび?」 「トカゲだよ。大丈夫だって」 横から飛び出したトカゲに驚く彼女。目的の宿に着けるのか。 トカゲの黒い目は僕の目を凝視する。僕は目を逸らす。 その先を進む。樹が生い茂る森は自然の匂いがしたが、所々が伐採されていて気になった。 「ここも、ここも。伐られ過ぎでしょ?」 「心配だね」 またその先に人影が見えた。樹の蔭でうまく見えなかったがこちらへ来ているような気がした。 「誰?」 よく見ると女性だった。黒髪の夜会巻きにノースリーブとショートパンツが似合っていた。首のペンダントと共に揺れる胸元、日光を浴びる木々と調和していた。 やがて僕らの前で止まる。 「篠田エイジさんと安楽城メイさんでよろしいですか?」 「は、はい」 「ようこそ、ミスズ館へ。私はこの宿の料理担当・伊原ミスズと申します。先ほどのトカゲから通信を受け、案内を承ります」 そうか。凝視されたのもこれの為か。 「ありがとうございます!」 「これからは急峻な道が続きます。お気をつけ下さい」 僕らは彼女に続く。確かにミスズ館であった。 樹の根がうねったり、沼に足を剥ぎ取られそうになったりしたのは大変だが、ようやく宿に着ける。 相当歩く。既に彼女に会って一時間が経とうとする頃、宿が見え始めた。 「あれだ!」 新大陸を発見したかのように声を上げるメイ。 宿は丸で空海の映画に描かれる都の一部であるように見えた。何層にも積み重なる瓦が趣深い。 「こちらでございます」 ドアが自動だったのは疑問だが。 中は全てが木でできていて、漆が塗ってある。その艶が光る。 「三〇六号室でございます。どうぞごゆっくり。異世界旅行会社から初期の衣類やその他のグッズが届いております。夕食は十八時を予定しています」 「ありがとうございました!」 僕らは朱に染められた階段を上る。隙間から微かに地面が見えていたのでメイは怖がる。どうやら高い所も無理らしい。 「じゃあエレベーターだね」 部屋に着く。照明を点ける。 「結構良くね?」 「外も見えるし。いいね」 外からは木々の合間に佇む池が見える。 部屋の全ては和風にできていた。僕らが日本人ということも考慮されていたのだろう。 山積みになった段ボール。これがグッズか? しかし、もう疲れた。ベッドにダイブ! 「きゃーっ、靴下脱いでよ!」 面倒だが靴下を脱いだ。色々価値観があるから仕方ない。 「ごめん、ごめん」 そもそもこのペアって何を基に作られてる?彼女とは持ちそうにないのだが…… ようやくグッズに手を付ける。大半が長袖と長ズボンだ。 歯ブラシとコップ、シャンプーに髭剃り……生活に困らないだけの物はあった。 「ってか、二人なの!!」 「僕も今気付いた……」 「えっ嫌だよ!」 「こっちだって嫌だよ!」 「夜あっちで寝てね!!」 指差されたのは窓側のソファー。 「いや、交代交代ね!」 ダブルベッドしかなかったのでこうなるのは仕方なかった。 全て身支度が終わった頃、丁度十八時を向かえた。 僕らは食堂に移動する。 異世界は地球よりゆとりがあると思う。みんなが和気藹藹としていた。 まだ肝心なことは解らないが… しかし、言えることは一つある。 僕が置かれた現実(日本)よりはずっといいということだ。 夕食中、メイは泣き出した。感動したのだ。 「いや、自炊じゃない御飯が久しぶりで……」 そう、彼女も異世界の方がずっといいと思っているはずだ。少なくとも今は。 そして夕食を食べ終え、僕は温泉に行く。 中はとても豪華だった。富士山が描かれていた。 部屋に戻った時、彼女は泣いていた。 「大丈夫?」 熱い涙が頬を伝う。 「いや、今までずっと辛かったから。異世界に来て、感動しちゃった」 彼女は飲酒運転の交通事故で両親を亡くしてしまったらしい。だから警察になる!と決めているそうだ。 だからか。彼女のビールと称したただの炭酸を飲んでいた姿は列車内で一度も見たことがない。 「大丈夫。異世界はそうじゃない」 「でもいつか、戻るんだよね?」 その問いには答えられなかった。 僕は自分の境遇を大袈裟に思っていた。それがとても苦しくなった。 もっと辛い人がいる…… 慰めて、ヒーローだと思い込むのは愚行だ。 「ごめん、暗い気にさせちゃって」 「僕こそごめん、自分がその立場でもないのに大丈夫だなんて無責任な言葉吐いちゃって」 そうして長い一日は終わった。 罪悪感や悔いばかりであった。
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