第2話 最大の依頼とか最悪な許婚とか聞いてねぇぞ

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 俺も驚いたが、セリーネ姫も驚いているということは、依頼の同行は聞いていたけれど、許婚の件は知らなかったようだ。 「ま、待って、お父様!?そんな話聞いてないですわ!!」 「うん、今初めて言ったからね」 「どうしてそんな大事なことを黙っているのですか!?」 「だって、そんなこと言ったら、シアノ君と一緒に行ってくれないじゃないか」 「………………」  ああ、図星なのか。別に、姫様が居ようが居まいがアランがいるし、なんとかなるからいいけどな。 それより、俺も親父を問いたださなきゃ。 「父上、どういうことなのか、説明をしていただきましょうか」 「……はぁ、シアノ、お前幾つだ?」 「………は?」  俺の問いには答えずに父は俺が予想していなかった事を尋ねてきた。いきなり年を聞くとは、どういう事だろうか。動揺したが、俺は父に冷静に返答する。 「今日18になったばかりですが、それが何か?」  すると、父は俺を呆れた目で見、一つ大きな溜め息をついた。 「…お前はもうそんな年なのだから、そろそろ見を固めねばならん。今まで言っていなかった事だが……」  俺は背筋に冷たい何かが走った。俺の顔を見て真剣な眼差しで父は告げた。 「実は彼女、セリーネ姫がお前の許婚だ」  俺は精一杯反論する。 「いや、それは先ほど聞きましたよ!!私が言っているのは突然すぎではないかということです!それに彼女はいいと言っている訳ではないでしょう!?」  大きな声で言うとセリーネ姫が無愛想にぼそっと告げた。 「言う訳ないでしょう。こんな女みたい顔した男と結婚なんて御免よ」  俺はセリーネ姫の方に視線を向け、皮肉じみた言葉を返した。 「こっちだって、こんな生意気で可愛げのねぇ女と結婚なんて願い下げだ」 「…と言うと思ったので、2人が成人するまで黙っていようということになっていたのだ。それに、多くの国に行くんだ。そこでその国の王宮に入る時にセリーネ姫との結婚を理由とすれば簡単に入れるだろう?」 「…………なるほど、セリーネ姫の依頼同行の理由は納得できました。しかし、許婚の理由にはならないでしょう。何故彼女と私なのですか?」  そう尋ねた俺に答えたのはヴァルゼン様だった。 「あれ?君たち、覚えてないの?」 「「何を……?」」 「セリーネ、君、ここに来てはシアノ君と遊んでたじゃないか」 「え……っ」 「シアノ、お前はセリーネちゃんが来ると嬉しそうにしてたじゃないか」 「えっ?」  全く、覚えてない……。  チラッとアランの方に顔を向けて、確認の意を込めた視線を送ると、思い出しているのか、顎に手を当てながら口を開く。 「……そういえば、銀髪のお嬢様を見たことがあるような気が……。でも、それって、私が宮殿に招かれてすぐの頃では?それ以降は見かけていないです」 「アランが覚えていて、当の本人たちは覚えてないってどういうことなのだ……?」 「あんな可愛くてお似合いな2人を見て許婚に決めたのに……」  親父が呆れたというようなため息をつき、ヴァルゼン様はガッカリして肩を落とした。  そんなあからさまに呆れられたり、がっかりされても……。覚えてねぇんだからしょうがねぇじゃん。  まあ、だからって許婚を認める気はねぇ。 「こんな生意気な女と結婚なんて御免だ!」 「こんな女みたいな男と結婚なんて御免よ!」  こんなに相性の悪い許婚と仕事なんてできるのだろうか。最大の依頼と最悪な許婚とか聞いてねぇぞ。……はぁ、お先真っ暗だ。
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