第1話 目立ちたくない皇子様には裏の顔がある

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 大臣だの、他国の王族だの、様々な高貴な人たちが来るので、祝いの言葉をもらうのだが、挨拶をする時にだけ笑顔を取り繕い、心の中では早く帰れと思っていた。  ちょっと訳があって、こうやって目立って、注目を浴びるのは、できるだけ避けたいのである。その訳は後で話すとして。  俺はこんな盛大に誕生日を祝うなと言ったはずなんだがな。あのクソ親父、騙しやがって。  俺の親父はこのサンカ帝国の国王かつヘリオスである。名はジャルシェ。太陽神だけあって、髪色は太陽を思わせる金色で、同じ色の顎髭を少しはやしている。身長は179と高身長なのと、女性からは「イケメンダンディ」という王の威厳が少しもないあだ名をつけられる程、渋い低めの声と整った顔をしている。そんな容姿端麗な王様の残念なところがあるとしたら、それは異常に俺と姉に対してのみ親バカである。  そんな親父が夜遅くに俺の部屋に来たのは、1週間前のことだ。 「おお、シアノ。もうすぐ誕生日だが、盛大にやろうと思うんだが、どう……」 「断る。俺は目立ちたくないから、家族間でやるだけでいい。成人の儀もそれでいい。いいな?絶対大っぴらにやるなよ、このクソ親父」 「…………仕方ない。分かった」  そう言った親父を簡単に信じた俺が馬鹿だった。あの信じられないくらい異常な親バカが俺の言葉だけで釘を刺しても無視するに決まっていたのに、その時の俺は皇子の仕事をこなして疲れていたのもあって、あれ以上、面倒な親父と話していたくなかったのだ。  あー、くそ。やらかしたよな……。こういう時にアランがあれば、多少楽にやり過ごせるんだけどな……。  アラン・オバーンは俺の執事兼護衛で、幼馴染みでもある、珍しい真紅の髪を持つ青年で、俺とは同い年。彼は伝説の最強戦闘種族、オバーン家の生き残りである。そのアランはというと……。 「レイシア皇女(ひめ)様、誕生日おめでとうございます」  俺ではなく、誕生日が同じで俺の双子の姉・レイシアの護衛として、彼女のそばにいるのだ。レイシアは俺と瓜二つで、お互い女装と男装をしても、どっちか分からないと言われるほどだ。そして、先ほど親父のところで出てきた姉とは彼女のことである。幼い頃から超可愛い系双子と言われてきたので、親父と兄からの異常な愛を受けてしまうのだ。てか、可愛いって言われたくねぇし、俺は。  あともう1つ言うと、レイシアはアランの想い人でもある。あんなののどこがいいのかは全く理解できないが、アランがレイシアを好きと言うんだ。応援するしかないだろ?まあ、一応身分差の恋って感じだから、応援の仕方が分からねぇんだけどな。  一旦、レイシアの話は置いておくとして。  今、俺たちは宮殿の大広間の謁見席で、右から俺、母上、親父、レイシアと座り、それぞれ祝いの挨拶を受けている状況だ。まあ、アランが近くにいると言えば近くにはいるのだが、俺が席を立つかアランがこちらに来るかしないと会話もできないし、助けを求めることも不可能だ。  疲れてきたが、この挨拶対応が終われば自由になれるから、それまでなんとか乗り切るしかないな。  そう思って、俺は残りの挨拶を対応した。
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