第1話 目立ちたくない皇子様には裏の顔がある

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 そうして自室に向かう道中、俺はアランに親父に呼ばれたことについて大体の説明をすると、アランは顎に手を当てながら口を開いた。 「銀髪の男性とお嬢さん、ね……。僕も同伴していいってことはまさかあっちの仕事の方?」  普段は丁寧な言葉で話すアランだが、俺が敬語を使われるのを嫌うので、2人の時は砕けた口調で話す。 「まあ、そんなところだ。……どうした、ずいぶん察しがいいじゃん」 「え、あー、まあ、あの人のおかげ?」 「あー、なるほど」  2人して「あの人」のことを思い出して微妙な空気になりながらそんな話をしていると、アランの瞳の色が深紅から金色に変わり、口を開く。 「おいおい、なんだよ?俺様の話をして微妙な空気になるってどういうことよ?」  一人称は『僕』から『俺』、優しげな口調が俺様口調に、とさっきまでの話し方から一変、別人のようになっているアランだが、本当に別人になっている。  彼はクロウ。アランと見た目が違うとすればその瞳の色が金色だということだ。性格は超俺様な上に、ドS。アランとは何もかもが正反対の人である。  クロウは初代の神々が生きた時代で生涯を終えたオバーン家最初の神人(ひと)で、アランの前世だ、と本人は言っていた。本当か嘘か定かではないが、アランが、 『なんか変な感じなんだけど、クロウの姿って髪が長い僕なんだよねー。しかも、僕は僕で、クロウのことが前世の僕って分かったし』 と言うので俺も本当なのだと思っている。  魂は2つなのに体は1つ、という状態なので、このように、アランと自由に体を入れ替えて話すこともできるし、お互い体を使ってない間も、使うときになればその時の記憶ははっきりしているので、入れ替わり中に意識が手放されることはない。一体、身体はどうなっているのだろうか。そこだけが謎だし、本人たちもよく分かってないらしい。……謎すぎる。  そんな不思議なことが幼い頃から目の前で起こってるからな、初めてこのことを知ってから数ヶ月は訳が分からなかったが、クロウとアランと過ごしてもう13年。流石に受け入れたし、もう慣れた。  慣れたは慣れたのだが、俺はどうもクロウに気に入られておもちゃ扱いされているので、クロウが出てくると一歩引いてしまう。 「い、いやー……別にぃ?そんなことねぇけど?」 「俺が罵ったり、踏み付けにしたりするとか考えたんだろ、どうせ。お望みならやってやるけど?」 「え、遠慮致しまする……」  アランの体で、一応主人の俺に恐ろしいことを平気で言うクロウから離れようと少し早歩きしたが、努力虚しく、ぴったりと俺の横についてきて状況は何も変わらない。少し泣きそうになっている俺を助けるかのように、クロウがピタッと止まった。  あ、まさか。 「クロウ!シアノが困ってるって分かってるならやめろって言ってるでしょ!」 「だってよぉ、クソ面白ぇ顔すんだもん。何だよ、あの泣きそうな顔。最高すぎだろ」 「面白がるな!全く……こんなことしてる場合じゃないのに……。ごめんね、シアノ」  出た、1人2役。  アランとクロウが言い合いをする時は大概こうなる。普段は表に出ている、体を使っている方がもう一方の声を聞くことができるので、話したことを俺に伝えたり、意思疎通したりするのだが、片方の感情が昂るとアランとクロウが交互に忙しく変わる変わるに話すという現象が起こる。名付けて、「1人2役」だ。  アランが俺に謝ってくれたが、1人2役を見てしまった後だから、もうどうでもいいと思いつつも、返答する。 「大丈夫、気にしてねぇから。慣れてるし」 「本当にごめんね」 「いいって、気にすんな」
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