空虚

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空虚

 でも私にはそれがいないのである。はじめに言った通り、おかしなこと、特異な例である。  冷たい親であれば、生まれてすぐに捨てられていてもおかしくないくらい異端の存在。  幸い、私を産んでくれた母も、そして父も優しいひとであった。私のことをきちんと育ててくれた。愛してもくれた。そして「ひとと違ってもあなたはあなたよ」とまで言ってくれるのだ。  両親がそんなひとたちだったからこそ、私はよその子供たちから悪く言われても、心無い大人たちにひそひそと陰口を叩かれても、比較的健全に成長できたのだと思う。  それでも寂しかった。  みんなが持っている片割れ。  自分の半身。  それがない私。  世界に一人きり、とは言わない。両親も、高校生になった今では理解して仲良くしてくれる友達もできた。けれど持っているみんなのことは当たり前のように羨ましい。  そして寂しくなってしまうのだ。  本当は片割れがちゃんといるのかもしれない。  事情で離れて育てられたのかもしれない。  けれど両親に聞いても「そんなことはない」と言われるばかりだし、私に確かめるすべなどないのであって。  私は一人で生きている。  身の周りに人々はいても、どこか空虚な心をずっと抱えていた。
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