突然のテニス部移籍

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突然のテニス部移籍

 中間テストも無事に終わった。蒼くんと碧くんにみっちり家庭教師をしてもらったおかげで、私の成績は上々。成績上位者の掲示に名前が載るほどではないけれど、クラスの中では上位者の枠に入るくらいだと先生に教えてもらえた。  嬉しくなって、二人にも報告した。もちろん喜んでもらえた。お礼にケーキを焼いて二人にご馳走したものだ。  テストは無事に終わったのだけど、その次の週、私はとんでもないことを聞かされた。部活の時間に、である。 「唐突で、また残念ではありますが、手芸部は学期末で長期休部になることが決まりました」  部員が急に集められて、顧問の先生もきていたからなにかと思えば、そんな話。三年生の部長が沈痛な面持ちで言った。  仰天した。  どうして、なんの理由で。  説明は顧問の先生にバトンタッチされた。それによると、今いるここ、活動に使っている家庭科室が大規模改装の対象になったそうだ。  確かにこの棟は随分古い。耐震の基準がナントカとか聞きかじったことはある。でもまさかこんなことになろうとは思わなかった。  この棟を丸ごと工事するのだそうだ。それにより、活動できる場所がなくなってしまう。ミシンなどを設置できる場所に条件があるし、じゅうぶんな活動はできなくなってしまうのだ。  よって、工事が終わるまで長期休部という形を取らざるを得ないのだと。  私だけでなく、当たり前のように部員たちに動揺が広がった。 「工事の終わりは早くとも冬、年末くらいになる予定です。部活は一応再開を予定しており……」  先生の話が終わったけれど、まとめるとこういうことだった。    ・手芸部は一応復活する予定はある  ・けれどそのとき部員が集まるかによる  ・学校生活に長期間、部活がないというのも物足りないだろうし、ほかの部活に入ってもかまわない    私は途方に暮れてしまった。  手芸部、なのだから今まで部活でやっていたお裁縫やなんかは、家などでできないこともない。  でもそれはやはり、『部活動』ではない。  部活というものは、なにかスポーツをやったりなにかを作ったりするだけのものではない。友達や仲間との交流など、大切なことはいっぱいあるのだ。それがなくなってしまうのは、残念だし嫌だと思う。  つまり、学校で『部活動』をしたかったら、一時的にでも別の部活に移動することになるわけで。  でもいきなりほかの部活と言われても……。  悩んでしまったけれど、そこへ思い出したのは、六月頭にあったレクリエーションだった。  すなわち、テニス部。  あのとき体験したテニスは楽しかった。  おまけに友人の瑠璃が所属していて、色々教わることもできるだろう。一人きりで新しい環境に飛び込むのは不安もあるから。  それに、あのとき習った格子先輩たちは「一年生が少ないから」と言っていた。それなら枯れ木も山のナントヤラになるのではないだろうか。  一時的な入部ということになるかもしれないのに、それでいいと言ってくれるかはわからないけれど……。  しかし案外、するっと決まってしまった。 「えっ! 歓迎するよ~! 今日の部活の時間にでもおいでよ! 一年生ほしいって言ってたからきっと喜ばれると思うな!」  私の「テニス部って入れてもらえるかなぁ」という質問に、瑠璃は顔を輝かせた。 「そっかそっか、長期休部なんて聞いたときは心配したけど、そう言ってもらえるのは嬉しいよ~」 「ありがとう。私も結構戸惑っちゃったんだけど……」 「そうだよねぇ」  心配してくれた瑠璃はやっぱり優しい子で、良い友達で。そんな瑠璃に連れられて、放課後部活動の時間にテニス部を訪ね、入部はあっさり決まってしまったのだった。 「多知さん、久しぶり。勧誘しておいてなんだが本当に入部してくれるなんて嬉しいな!」 「春水、なかなかすじがいい子がいたから入部してくれねーかな、って言ってたもんな」  あのとき教えてくれた格子先輩たちもにこやかに迎えてくれた。 「そ、そうだったんですか」  そう言われていたとは。過大評価で恐縮もするし、それにお世辞かもしれないけれど、なんだか嬉しい。 「一応、今のところは一時入部ってことで、ご迷惑かけちゃうかもしれないですけど、よろしくお願いします!」  私の言葉は笑い飛ばされた。 「いやいや、それまでにテニスのおもしろさを叩き込んで、戻りたくなくなるようにしてやるからよ!」 「秋水も乗り気じゃねーか!」  あはは、とその場に笑いが溢れた。ほかの部員さんたちもあたたかく迎えてくれて、どうやらこれからしばらくは、部活動もちゃんと学校生活に組み込まれそうだし、また楽しいものになりそうだった。
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