呻る双腕重機は雪の香り

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「やられた」  手を握りながら走っていると、新雪のぬかるんだ路面にローファーでは踏ん張りがきかず、思うように走れない。    そうしているうちに、私たちの退路がドンドンと断たれていった。  何度も道路を迂回しているうちに、屋敷には近づいていくが不穏な空気も同時に彼は嗅ぎとっていた。 「うまいもんです。 これほどの連携をしてくるなんて」  そう、私たちは追われながら徐々にあの工事現場付近まで追い詰められている。  もう目と鼻の先に現場が見えた。 「お嬢様! 絶対私から離れないでください!」  理解しているが、先ほどから走りっぱなしなうえに、靴に雪が染み込んで何とも言えない不快感と、つま先の感覚が鈍りだしてきている。  足から意識を遠のけようと周りの景色をみようとすると、違和感に気が付いた。 「ねぇ! 周りの家に人がいない!」  先を走っていた蒲生さんが急に立ち止まる。  息一つ乱れておらず、私はその場に倒れそうになるのをこらえ、必死に体中に酸素を送り込んでいった。 「確かに……。 静かすぎる。 家の明かりも灯っていないうえに、車も一台もない」  ゴクリと生唾を飲み込む。 ここの住宅街は昼でもよく近所のお母さんたちが立ち話をしている光景がある明るい感じの住宅街であった。  雪が降ったからという理由もあるが、それにしても生命感がまるで感じられなかった。 「くる――!」  蒲生さんが急に反転し、私を抱きかかえながら裏路地へ飛び込んだ。  するとすぐに、大きな駆動音が辺りに響き渡り、顔を少しだけ出して確認すると、先の交差点から曲がってくる大きな工業用機械が見えた。  私は見たことのないタイプで、腕が二本もついている珍しい機械である。 「なんてモノ引き出してきたんだ! 新型の双腕重機か⁉」  確認を済ませると、少しの間考える素振りを見せると直ぐに、走りだそうとする。 「お嬢様、苦しいでしょうが今は我慢してください」  コクリと頷くと、彼はまた走りだそうとする。 しかし、私の足がもつれ前に倒れそうになった。   「え……」  ガクンと膝から崩れ落ちるように倒れていくと、硬く力強い腕が私の体を支えてくれた。 「大丈夫ですか?」 「えぇ、ありがとう」  口では大丈夫なセリフを吐くが、下半身はブルブルと震え力が入らない。  つま先の感覚は既になく、走ったのにも関わらず寒さが全身を支配し始めていた。 「ちょっと無理そうですね……。 失礼します!」   「ヒャッ!」    いきなりのことでビックリしたが、いきなり私の足と肩に手をまわしたかと思うと、勢いよく抱え上げた。  いわゆる『お姫様抱っこ』状態である。   「嫌かもしれませんが、今は我慢してください」  後方からは駆動音が大きくなり、マシンの軋む音までも聞こえてくる。  こちらを見つけたのか、大きくエンジンがふけあがり、塀を壊しながらこちらに向かって突撃してきた。  
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