呻る双腕重機は雪の香り

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 急いで曲がり、身を隠すと敵はまるでこちらに気が付いていないのか、すぐ横を通り過ぎていった。   「す、すごい……‼」  私の予想通り、ここ周辺を一望できるのは、南にある大きな建設会社のビルだけ、しかし、そのビルからはここの通路は死角になっているので、気付かれる心配はなかった。  それでも、いつまでもここが安全とか限らない、相手はこちらを見失ったことにより、なりふり構わず探しだすだろう。  それまでの小休止はできそうだ。 「お嬢様、凄いです! よく死角だってわかりましたね」  関心したように、若干乱れかかった息を整えながら、私を見つめて来る蒲生さんの額に、うっすらと汗が見える。 「そ、その。 もう、降ろして……」  あまりの距離感に恥ずかしくなり、慌てて降ろしてもらうように頼むと、彼は気が付き、私を丁寧に降ろしてくれた。  「申し訳ございません。 気が付かずに、それにしても敵はどこから、我々を監視しているのでしょうか?」  その問いに関して、私は詳しく教えた。   おそらく、ASHINAの傘下に入っている建設会社なのだろうが、まさかこうも大胆な手段を使ってくるとは思わなかった。    それでも、警察にはコネが薄いらしく、運転手からは無事を告げるメッセージと、警察車両が違法改造車を追い回している情報が手に入った。  これで、私たちはあの双腕重機に集中すればよいだけとなる。   「不思議です。 お嬢様の情報が正しければ、敵は相当強い電波によってあの機械を操っていることになりますが、それは現実的に考えて不可能でしょう」 「そうね、途中に人材を揃えて連絡を取り合っているような感じもないし、直接操縦していると思うけど」  お互い考えを巡らせていると、私の頬に冷たい感触があった。  そらを見上げると、そこには雪が降りだし鉛色の空に色を添えている。  ふとしたことで緊張が緩み、私の体は一気に冷えだし、今まで忘れていたつま先の深いな感覚が蘇ってきた。 「うっ――」  思わず辛い声が漏れてしまった。 それを聞き逃すような蒲生さんではなく、慌てて私に近づくと少々躊躇ったような表情をしたが、深呼吸を一回大きくすると、長く逞しい腕で私を抱き寄せると、今まで走り続けてきた暖かな体温と、筋肉質な体が優しく包んでくれた。 「も、申し訳ございません。 辛いと思いますが、私が絶対お嬢様をお守りいたします。 それと嫌かもしれませんが、今は我慢してください」  照れたような、しどろもどろな口調に頬が緩む。 首を小さく左右に振ると、私はそのまま彼の胸板に体重を預けた。  一瞬で彼の香りに包まれ、なんとも言えないホワホワとした感覚になる。 「今日、本を買えなくなってしまったし、皆勤賞も無くなってしまった」  私のどうでもよい我儘に、彼はただ「申し訳ございません」を連ねていく。  別に怒っているつもりはなく、むしろ、この状況で黙っているのが無理だった。  次第に体に熱が伝わり、寒さが和らいでいく。  気になる足も、今は彼の存在が大きすぎてそれほど気にならない。  あまりにも近すぎて呼吸が苦しくなったので、少しだけ視線をあげてみると、ふと視界に何か入った。 「ん?」 「どうかしましたか?」 「ねぇ、あれってなんのアンテナ?」  私が指さす方向を蒲生さんが見る。 「あれは、テレビでもないですね……。 もしかすると⁉」  彼はいきなり今までの表情ではなく、キリッとした表情に変わると何かを考え始めた。    
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