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そっと体を離すと、今まで気が付かなかったが吐く息が白い。
それほど空気が冷たかったのかと思うと、この現状がいかにこちらに不利なのかを物語っている。
「お嬢様、ここに隠れていてください」
「一人でやるの?」
なんとなく、彼がやりそうなことが見えている。
「私はあなたの楯です。 安心してください、必ずお守りいたします」
そっとペンダントへ手を伸ばし強く握りしめた。
それを見た彼は満足そうに笑うと呼吸を整え、壁を登り始める。
壁よりも上に行くと、確実に視界に入る。 つまり、居場所が特定されてしまう。
発見され、攻撃されるよりも素早くあのアンテナを破壊しなければならない。
「うっしょ!」
壁を一気にのぼると、一旦遠くで響いていたディーゼル音が急にこちらに向かってくるのがわかった。
「急いで!」
キザに親指をたてて一回微笑むと、そのまま雪が残る屋根の上を走りだした。
「うぉ!」
足を滑らせ、転がりそうになるが持ち前の身体能力と鍛えた筋力でもちこたえ、また走っていく。
それと同時に、障害物を破損しながら近づいてくる双腕重機は、新型ということもあってか、動きが早い。
操縦者も相当の腕前と思えた。
「頑張って!」
私の声が聞こえているのかわからないが、その頼りになる背中に向かって声を振り絞った。
「よっしゃ!」
先にアンテナに到着したのは蒲生さん、急いでアンテナの破壊に取り掛かるが、敵も敵でしっかりと保護されたアンテナは強固で、足場が不安定な彼の力では容易く破壊できそうもない。
そうしているうちに、双腕重機は彼の目の前まで来ている。
それを横目で確認しながら、何度も蹴りをアンテナに繰り出すが、間に合いそうもない。
「もう少し――‼」
私に何かできないだろうか? このひ弱な私でも、彼を助ける術はないのか。
そう考えているうちに、勝手に体が動き隠れていた路地を出て、敵から一番目立つ場所にでると思いっきり腕を振ってアピールした。
それを見つけた蒲生さんは、信じられないような表情をしたが、それは敵も一緒で双腕重機の動きが一瞬鈍り、速度が落ち、腕がこちらを向こうとする。
察した彼はこれを好機と認識し、一気にアンテナへ向かって攻撃をしていった。
操縦者も理解したのか、慌てて車体を戻し彼に迫ろうとしたが、その一瞬が勝敗を分けた。
「これで! どうだ!」
バキンッ‼‼
大きなアンテナが耳に残る音をたて屋根から滑り落ちっていった。
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