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一晩ゆっくり寝ると、頭がすっきりする。
温かな世界から抜け出し、肌を一気に冷やし目を無理やり覚まさせると鏡に向かって座り、髪の毛を整える。
彼は朝食の時間は言いつけをまもり、私の部屋には来ないようにしているが、いつなんどき不測の事態がおこるやもしれないので、準備は怠らないようにしていた。
ちょうど枝毛の処理が終わった段階で、朝食を知らせるベルが鳴る。
部屋を出て食事を済ませると、学園に向かう準備を始めた。
とくにすることもないが、忘れ物だけはないようにと、必ずチェックを入れるようにしている。
皆勤賞が消えたのは少し寂しい気持ちもするが、不可抗力なのでなんとも言い難い。
それに、もう一つ驚くべきことは。
あの双腕重機が暴れて壊れた塀や家がわずか一日で修復されていることだ。
聞いた情報によれば、あの町内一帯を温泉旅行に招待したそうで、強制的に無人の空間を作り上げたのだ。
「なんたるお金の無駄遣い……」
そして、破損した箇所を素早く修復し、住民が帰宅するまでにもとのようにしていた。
その無駄な技術力とマンパワーをどこか別の方面で発揮していただきたい。
私を懲らしめるために、莫大な予算と人員を割いている。
世の人手不足問題はASHINAにとっては関係のないことなのだろうか?
変なことを考えながらソックスに足を通していると部屋の扉が二回ノックされる。
「お嬢様、ご準備は?」
「うん、できたからもう少しだけ待ってて」
鞄を持ち、彼がまつ外へとでた。
光を背にしながら、こちらに気が付くと優しく微笑みながら挨拶をしてくれる。
「おはようございます」
「お、おはようございます」
なぜか尻すぼみになる語尾に、彼の顔を直接見れない。
こんな感覚は初めてで、どうしたらよいのかわからなかった。
蒲生さんのエスコートで外までいくと、車が待っている。
父の案により、今までセダンタイプの車だったが今度からはゴツく「いかにも」な車を用意してくれた。
聞いた話によれば、どこぞの軍用車のモデルになっている車種のようだが、いったい父は何を思ってかえたのだろうか。
車を変えれば状況が変わるような感じはまったくしない。
前回のように、いきなり横から双腕重機に襲われたら、いくら軍用車でも耐えられない。
色んな意味で人目を惹く車に乗り込むと、先日の怪我が癒えない運転手がハンドルを握ってまててくれた。
「あら、もう大丈夫なの?」
「はい、完治とまではいきませんが、運転に支障はありません。 旦那様にも休むよう言われましたが」
自らの意思で早めに復帰してくれたのは嬉しい。
そんな彼の想いを大切にしたいので、あえて責めるような言葉は発しなかった。
「ありがとうね」
代わりにお礼を述べる。
それを聞いてなぜかニコニコしている蒲生さん。 なんだか頬が熱くなってきた。
「ありがたいお言葉……」
運転手は帽子を深く被ると、エンジンを始動させ車を走らせた。
「今までのお車より揺れますのでお気をつけて」
そう言いながら、学園までの道を走り進めていく。
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