田村兄妹

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 静かになった廊下を進み、教室へ入るなり私に向かって視線が送られ来た。  さきほどの件といい、私がASHINAに狙われていることは、既に知られているようで、元々話しかけられなかったのに、更に遠巻きに「観察」される対象になってしまった。  これで、この学園生活は今まで以上に枯れたものになってしまうのかと思うと、なぜかスッキリするような、寂しいようなそんな複雑な温い感情ができる。  授業に移っても、先生はあえて私を遠ざけ質問もせず淡々と授業をこなしているのがわかった。  当たり前だ。 下手に手助けなどしようものなら自らが危険にさらされてしまう。  保身を優先するのは、当たり前なことだ。  そして昼休みになると、爺が用意してくれたお弁当箱を一人で広げ食べようとしたとき、二人の男女が教室へ入ってくる。  その瞬間、教室内はざわめきだし全員の視線がその二人に向けられた。 「おやおや――随分と辛気臭い教室ですね」  スラっと伸びた足に、さらさらと流れるような綺麗な銀髪と女性を虜にしてしまう美貌を兼ね備えた人物、それが現生徒会長である田村 白馬であった。  その横を姿勢を正し、丁寧に歩いているのが妹の田村 鮎子で、書記を務めている。  一見地味な彼女であるが、今朝の一件で印象が変わった。  田村生徒会長は、教室を眺めながら小馬鹿にしたように鼻で笑うと、まっすぐ私の席めがけて歩いてくる。  そして、目の前に立つとこちらを見降ろしながら優しく言葉を投げかけてくれた。 「こんなヤツらの視線や態度など気にするな。 それよりも僕は君に用がある。 放課後と言っていたが待ちきれなくてね、来てしまった」 「もう、すみません……。 兄がどうしてもって」  その言葉を聞いて、私も何か言わなければと思い口を開こうとしたとき、目の前に置かれていたお弁当をヒョイと簡単に奪われると、鮎子に手渡し私の腕を掴んでくる。 「え?」 「こんな辛気臭いところで食べていても、料理が不味くなるだけだ。 どうだい? 一緒に食べよう」  ザワっと先ほど違った感じでざわめきだす教室へ会長は一言残し、私を連れて出ていった。 「ごめんごめん、辛気臭いってのは失礼した。 皆さんの大切な休憩時間を乱し申し訳なかった。 ごゆるりとお過ごしください」  教室の外へ出ても私の手を離さず、鮎子はニコニコしながら横を歩いていく。 「ちょ、ちょっと! どこに行くんですか?」 「あぁ、伝えていなかったね。 僕たちの城だよ」  そう言って連れてこられたのは、生徒会室で鍵を鮎子が開けると、勢いよく中に入るなり、会長はお茶の用意を始めた。
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