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「あぁんもう! 煮え切らないんだから! 黙って座ってて」
あの可愛らしい瞳を強張らせ、勢いよく白馬会長をソファーに座らせると、コホンと一回咳払いを終え、お弁当を食べながら私に言葉を投げかけてくる。
「食べながら失礼しますね。 愛さんも食べながらでけっこうなので」
私は頷くと、相手を見ながらお弁当を食べる。
「単刀直入にお聞きします。 今、あなたを警護しているのは 蒲生 盛矢という人物では間違いありませんか?」
急に蒲生さんの名前が出てきて驚いてしまう。 肉団子を掴んでいた箸が動かなくなってしまった。
懸念していたこの二人がASHINAと何らかの関りがあるのではないだろうか?
しかし、学園にまで手を伸ばしてくるとは思いもしなかった。
「あ、何か勘違いしているみたいですが、違いますからね。 私たちはASHINAとはまるっきり関りがありませんので、その点はご安心を。 むしろ私たちの管理するトマト事業に首ツッコんできてムカついているのに……」
ギリっと爪を強く噛む鮎子に、先ほどから座っていても上の空状態の会長、どちらが本当の本人なのか見当がつかない。
「そ、それで、なぜ彼の名を知りたいのですか?」
「そうね、敢えていうなら、あなたのような可憐な乙女を守護するナイトに興味があるってことぐらいね」
意味がわからない。 この学園には常日頃から護衛をつけている人も少なくないのに、なぜ私なのだろうか。
それに現状はASHINAとはうまくいっていない様子で、他に私に関与したがる理由も不明だ。
でも、一つだけ可能性がある。 それは、私に興味があるのではなく、彼に興味があるのではないだろうか。
確かに彼女は言った。 興味があることは私ではなく蒲生さんだと。
そう言われると、なぜか心の奥が嫌な空気で満たされるような感覚に陥っていく。
「だから、それはなぜですか? 理由をお聞きできない以上、私からも何もお答えできません」
「はぁ、そう言うと思ったよ。 だから、はい! 兄さんの出番だよ」
隣に座っている兄の背中を勢いよく叩き、立たせると目線で合図を送っている。
そして、白馬会長は大きく深呼吸をすると小さな声で私に言ってくる。
「……ない…ろ…か」
「は、はい?」
「一目、会わせてくれないだろうか――」
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