田村兄妹

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 とても意外な言葉がきた。 まさか彼に会いたいと言われるとは、まったく考えていなかった。  それだけに、また体が固まってしまい。 返事が一瞬遅れた。 「だから、兄にあなたのナイトさんを会わせてほしいの、頼める?」 「た、頼めるもなにも、放課後になれば私を迎えに必ず学園に来ますので、その時でしたら可能かと」  落ち着いて言えたきがする。 そして、私の言葉を聞いた白馬会長は嬉しそうに瞳を輝かせながら小さくガッツポーズしている。   「あのぉ、よろしければなぜ会長は蒲生さんにお会いしたいのでしょうか?」  私の質問に対し、ニタリと笑う鮎子。 「へぇ、やっぱり蒲生って言うんだ」  しまった。 軽率に名を口に出してしまった。 自分の言動がいかに何も考えていないのかを露見してしまった。  彼の苗字を聞いた会長は、大急ぎで胸ポケットから取り出したメモ帳に何かを書き込んでいっている。   「愛って賢そうに見えて、意外と抜けているのね」 「そ、そうですか? 自分では賢いと思ったことはございませんが……」 「でも、そこが素敵ね――ギャップ萌えって言うのかしら? なんだか、とても可愛らしい」  そう言ってお茶を片手に、なぜか恍惚な表情をする鮎子に、私の背筋は一瞬ブルっと震える。  視界の端に映っている会長は、メモ帳を一生懸命見つめ惚けた顔をしながら、机に戻り外を見つめている。 「はぁ……。 もう、だらしがないんだから、ほら愛も食べちゃいな、もう少しでお昼終わっちゃうよ」  壁に掛けられている時計を確認すると、既に十五分をきっていた。  次は移動教室なので、早めに準備をしなければならない。  急いで口に詰め込むと、美味しいほうじ茶で流し込む。 「えっと、それじゃあ」  なんと言って別れればよいのかわからず、いつもはあまり言わない言葉でわかれを告げる。  鮎子は笑顔で軽く手を振りながら見送り、それを確認するとドアを閉めて急いで教室へ向かう。  勢いよく扉を開けると、全員の視線が私に刺さるが、気のせいか先ほどまでの鋭さは感じなくなっていた。  私が慣れたということもるが、会長が言ってくださったおかげなのかもしれない。  少しだけ心の中で感謝を述べると、次の授業の準備を私は開始した。
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