田村兄妹

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「はぐうううぁあ!」  手を握り返された会長は、奇声を発しながら後ろへダッシュで戻ると、茂みの陰に隠れてしまった。 「えっと……。 何かしましたか?」  困惑する蒲生さんに、妹の鮎子は「心配しないで、ただの病気よ」と言って鼻で笑っている。  確かに、私がイメージする田村会長のイメージではまるでない。  いったい何がどうなっているのか、先日の双腕重機の件といい、今まで私が暮らしていた世界とは違っているのではないだろうかと、思えてくる。 「そ、そうですか、それならあまり気にしないことにしておきましょう。 でわ、帰りますか?」  蒲生さんが私に手を差し伸べてエスコートしてくれた。  まだ足に若干の違和感をもっているような歩き方で、私を守りながら車までの短い道のりを案内してくれた。 「えっと、それでは御機嫌よう」  一応挨拶しておく必要もあると思い、振り返って述べると鮎子は笑顔で手を振りながら私を見送ってくれた。  会長は相変わらず隠れたまま出てこないでいる。  バタンッ。  ドアが閉まり、車が走り出した。  今日は疲れた。 いつも疲れない学園生活なのに、あの二人が加わるだけで、なんとも忙しい日となり、大切な授業内容を覚えていない。  帰ったら板書したノートを見返して復習する必要がある。 「はぁ……」 「疲れましたか?」  小さく頷くと、彼は鞄から取り出した魔法瓶を取り出してコップに注ぐと、私にそれを渡してくれる。  薄茶色の液体から、顔ってくる柑橘系の良い香りに慌ただしく感じた心が、一気に落ち着いていくのがわかった。  ひと口飲み込むと、若干温くなった液体が体中に染みわたっていく。 「おいしい、これって花林(かりん)?」   「正解です」  既存のスーパー等で売っている商品をお湯で割っただけの品と言っているが、それでも十分美味しく飲める。  普段はそれほど口にしないが、興味がでてきた。 「どうですか? 落ち着きましたか?」 「えぇ、ちょっと変わった人たちに絡まれたけど、なんとか一日終われそうね」  苦笑しながら何かを察してくれたようで、あとは何も言わずにただ外の景色を眺めていく。  帰ったら、おススメのアステカ音楽を教えてもらおう。  そんなことを考えながら、澄んだ景色の奥に沈む太陽にお別れを言いながら、車の揺れを楽しんだ。  
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