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一通り会話を終えて、彼が部屋を出ていくと同時に食事の時間を告げるベルがなった。
しかし、私はその場から動くことができずに、高鳴る鼓動を必死に抑えようとしている。
蒲生さんの言葉がずっと耳に残る。
『私は、あなたを絶対お守りいたします』
仕事だということは、百も承知であるがそれでも、まっすぐに見つめられながら言われると、自然と頬が熱くなるのが感じられた。
「なに? 自分がわからない」
わからないことだらけだった。 ASHINAに狙われるようになったことも、学園で変な二人に絡まれることも、なぜ彼の言葉にこれほど動揺するのかも、全てがかわらない。
それでも、確実に言えることはこの「わからない」日常が好きになりつつある。
もちろん、怪我をさせてしまった人もたくさんいる。
それでも、帰って予習をして習い事をしながらも、淡泊な学園生活を三年間送る予定だったのが、一瞬で別の世界へときてしまった。
流れる時計の秒針の音は、ズレることなく永遠と時を刻み続ける。
それは、前にしか進まない。 昨日の失敗を取り返したいと思う事はあっても、必ず明日はもっとよくなるようにと願う。
だから私は、この変わってしまった日常に対し、もっとよくしようと思う。
そのためには、彼の存在は不可欠であり要でもある。
ペンダントを取り出して、カランコエを指で優しくなぞる。
彼から頂いた大切なお守り、これがあるから私は平然と学園生活を送れるような気がする。
白馬の王子さまに小さな女の子が憧れる時期がくるのはわかる。
しかし、まさか私を守ってくれる騎士が現れるとは思っていなかった。
「人生、何が起きるのか本当にわからない」
ぼんやりと呟くが、部屋のぬくんだ空気に吸い込まれていく私の言霊は、少しだけ熱をもっているように思えた。
そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされる。
「お嬢様? 具合でも悪いのですか?」
爺が心配して、わざわざ迎えにきてくれた。
人にあまり迷惑をかけたくないのに、寒い廊下を無駄に歩かせてしまった。
自分の頬を軽くパンパンと二回叩き、気合を入れると返事をする。
「ごめんなさい、今いきます!」
私の元気な声を聞いた爺は、心配がなくなったのか「お待ちしております」とだけ、告げると来た道を戻っていった。
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