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私がクラスに入ると、昨日とは違う視線を感じる。
理由はなんとなくわかった。 今朝の集団にクラスメイトが何人か混ざっていただ。
軽く頭を抱えながら、授業の準備をしていると不意に声をかけられた。
「ちょっと、五色さん」
誰だろう、昨日の今日で私に話しかけてくる人などこのクラスにいるのだろうか?
顔をあげて人物を確認してみると、少し意外な人だった。
筋肉質ながらも、綺麗なプロポーションでハンドボール部の若きエースと言われている速水 栞奈さんであった。
たしかご実家は大手の建設業を営んでおり、海外を拠点に活躍していると聞いたことがある。
黒く整ったショートヘアに、健康的な肌の色と大きな目が印象的なカッコよくもあり、綺麗な人でもある。
そんな彼女が、いったい私にどんなようだろうか?
「えっと速水さん……。 なにか御用ですか?」
「うお、私の名前覚えててくれたんだね。ちょっと嬉しいかも、最近試合で学園まったく来れてなくてさ、すごーく申し訳ないんだけど、ノート見せてくれない?」
両手をあわされ、頭を下げる彼女に私は慌ててノートを差し出すと、喜んだ表情になり「ありがとう」とだけ告げて席へと戻っていった。
彼女からはまったく悪意を感じない。 この教室の空気を感じ取っていなのだろうか?
鼻歌を歌いながら、私のノートを自分のノートへ書き写していく彼女の背中を見ていると、なんだか少しだけ気が緩んでしまった。
お昼休みになると、昨日とは違い速水さんが声をかけてくれた。
「やっほー五色さん、ノートありがとうね」
「ありがとうって、もう写し終えたの?」
「そ、授業中ずっとやってたから、肩こっちゃった」
いや、授業は授業で別に集中しなければならないであろう。
しかし、今日使わないノートを持ってきてよかった。
お弁当箱をとりだしながら、ノートを机の中にしまおうとすると、彼女は何かを悩んでいるのか口に手をあてながら少し呻っている。
「よっし! 決めた。 五色さん、お昼一緒に食べない⁉」
「え?」
私がなぜ? と聞く前に、自分の席に戻りお弁当箱を持ってくるなり、私の前に座りだした。
「いやー、実は私って五色さんみたいなカワイイ人みながらお昼ご飯食べるの夢だったんだよね」
頭が痛み出した。 昨日といい、今日といい、なぜこうも私のまわりの人は意味不明な言葉を発するのだろうか?
ノートを書き写していたときと同じ鼻歌を歌いながら、お弁当箱を広げていく、しかし、背後でクラスメイトが騒ぎ出し入口をみると、今日も生徒会長と妹の鮎子がお弁当をもってこちらに向かって手を振ってきている。
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