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「おやおや愛くん、今日は珍しく一人じゃないのかい?」
人を怒らせる才能をもっているのだろうか会長は、私が一人でいないことがそんなに不思議なのだろうか。
「あ、どうも速水さんお久しぶりです」
「んあ? 会長と、鮎子? 久しぶり! クラス変わって以来だけど」
どうやら、鮎子と速水さんは去年同じクラスだったようで、顔見知りのようであった。
こんな濃い二人を前に平然とお弁当箱を広げ始めている速水さんの神経の太さを私も見習いたい。
「そ、それで会長と鮎子は私になにか御用で?」
「おぉ、それなんだが、どうせ愛くん今日も一人だと思ってね。せっかくだら、お昼を一緒にと思ってきたんだよ」
いちいち言葉に棘を感じる。 速水さんが私を見つめてきた。 頭にクエスチョンマークがたくさん浮かび上がってきているのが見える。
そんな彼女のことなどお構いなしに私からお弁当を奪うように取りあげる会長と、鮎子はなぜか速水さんにもご一緒にいかが? と言って、誘っている。
「えっと、ちょっと! 返してくださいよ!」
「なぁに、今から行けばちょうどお湯が沸くだろう、鮎子のお茶が飲めるというものだよ」
それを聞いて私は昨日の豊かな香りのするお茶を思い出した。
もう一度、そうもう一度ぐらいならと思って、先行く二人の後を追いだした。
「ふーん、五色さんって会長や鮎子とも付き合いあったんだ」
「いや、鮎子さんに至っては昨日知り合ったばかりよ」
私の返答に対し速水さんは顔を崩しながら意味の分からない展開についていこうとする。
「大丈夫、私も理解できていないから」
彼女の心の声に思わず答えてしまうと、それを聞いた速水さんは笑顔になると、私に一歩近づいて話始める。
「やっぱり、五色さんっておもしろいかも!」
屈託ない笑顔で言われると、少し照れてしまいそうになるが、さいしょの「やっぱり」が気になる。
そして、私はおもしろいのだろうか? 自分でいうのもなんだが、物静かであまり目立たないような性格だと思っている。
生徒会室に到着すると、鮎子がさっそくお茶を淹れてくれた。
すぐに芳醇な香りが部屋中を満たしていく。 口が自然と渇くのを隠しながら、お弁当を広げて待っていると、速水さんが先に座ると、続いてお茶を淹れ終えた鮎子が座った。
目の前に置かれたほうじ茶からは、今日もよい香りがしている。
ふーふーと、少し息を吹きかけながらひと口いただくと、体中の力が抜けていく。
「ふぁ……。 美味しい」
「そ、よかった。 速水さんも飲んでみて」
「ん? おぉ! 美味しそういただきます!」
彼女も鮎子のお茶を美味しいと言いながら感動し、会長は相変わらずサプリだけで昼食を済ませていた。
どうも、この賑やかなお昼は慣れそうもないが、少しだけ居心地がよいと感じてしまうのは、きっとこの座り心地のよいソファーのせいだろう。
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