田村兄妹

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 お昼休みが終わり、放課後になると一斉に人が帰りだした。  部活が盛んでない学園なので、帰宅する人の割合が多い、しかし、家で個別に習い事をしたり、有名なクラブへ通っている人もいるので、スポーツに興味が無いというわけでない。  もちろん、私は運動が苦手なので極力スポーツというものには触れてこないようにしていた。  私も帰ろうと支度を終えて席から立ち上がると、不意に声をかけられた。 「五色さん、今日の放課後って暇?」  声の主は速水さんで、疲れ切った顔をしながら近寄ってくる。 「えっと、帰るだけだけど」  返答を聞くなり目が輝くと一気に詰め寄ってきてある提案をしてくれた。   「そう⁉ じゃあ、ちょっと付き合って欲しい場所があって」  意外な提案をしてくれた。 今日は立て続けに試合をこなしてきたので、今週は部活がフリーの期間らしく、せっかくの暇を楽しみたいということで、私を誘ってくれたようだ。  なぜ私なの? と聞くと、「仲良くなりたいから」と言われ、少しだけ気恥ずかしいと感じてしまった。  そもそも、答えになっていない。 なぜ私と仲良くしたいのだろうか? そこが一番重要なのだろうが、あえて聞かないことにする。    せっかく誘ってくださったのだから、私も純粋にだれかと出かけるのは久しく、ワクワクしてきている。  教室を出て、電話を取り出して蒲生さんに連絡をいれようとしたとき、背後から最近よく聞く声が聞こえてきた。 「おぉ! 愛くん! ちょっといいかな」 「やほーお二人さん」  振り返ると、お昼に会ったばかりの田村兄妹が立っていた。   「あ! 会長に鮎子も、ちょうどよかった。 ねぇ、これから二人で出かけるんだけど、一緒にどう?」  お互い顔を見合わせてすぐに頷くと、合流して歩き出した。  いきなり大所帯になったが、不思議と受け入れている自分がいる。  こんなふうに近い年齢の人と帰るなんて凄く久しい気がした。  いつも帰る玄関からでなく、裏手から商店街へ抜けるように出ていくと、速水さんはお目当てのお店目指して案内してくれた。  まだ早い時間帯であるが、日は傾きかけ寒くなってきている。    彼女が案内してくれたのは、華やかな商店街から少し外れた裏路地にある暖簾に歴史を感じる和菓子屋だった。  彼女はそこに慣れたように入っていくと、一番奥の席へとまっすぐに向かっていく。 「あら、栞奈ちゃんいらっしゃい、今日はお友だちも? 嬉しいねぇ」  ニコニコと人当たりのよさそうなおばさんが奥からでてきて、温かいお茶を私たちに淹れてくれた。  色の鮮やかな緑茶で香りに甘みが含まれている。 「ほう、ここはなんとも雰囲気のよいお店だね速水くん、それで本日は私たちになにを紹介してくれるのかね?」  ワクワクと楽しそうに話し出す会長の横で、鮎子もキョロキョロと周りを見て楽しそうにしている。    
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