田村兄妹

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 そんな二人に対し、悪戯っぽい笑顔で答えた彼女は、手を振って元気な声で注文を言う。 「すみませぇーん! いつものを人数分お願いします!」  奥から「はいよー」とこれまた元気な声が聞こえてくると、速水さんはお茶を飲んだ。  私もそれにつられひと口いただくと、緑茶の甘みを凝縮したような独特の甘みが口いっぱいに広がり、そのあとに訪れる爽やかな香りが印象的な美味しいお茶だった。  おもわず「ふぅ」と言いそうになるが、お店が静かすぎるのでグッとこらえた。 「ふぅ」 「ふぅ」 「ふぅ」  私以外の三人が、同時に同じような反応をしめし、タイミングが重なったことに小さく笑い始める。  私も言っていたら、四重奏だったな。  冗談を言いたくとも言えない性格なので、今考えたことはそっと心の奥底にしまっておく。  そして、雑談をしていると「いつもの」が運ばれてくる。  飲食店などで「いつもの」が通じるのは、とてもカッコいいと感じた。  よくドラマや小説の世界ではあるが、実際に使った人を初めてみる。  小さく小奇麗なセンスのよい平皿に乗せられてきた食べ物は意外にもたい焼きで、速水さん以外は少し驚いた表情をしていた。  そんな私たちをみてニヤニヤと笑うと、丁寧に手をあわせていただきますと呟くと、ひと口お腹の部分から食べた。 「うーん! 美味しい!!」  出来立てで食べ口から湯気が見える。  甘い香りが漂い、鼻の奥があんこに満たされた。 「どれどれ」  次に会長が頭からひと口食べ、数回咀嚼すると大きく目を見開きすぐに、頬が緩み幸せそうな表情になる。 「うんまい……」  鮎子もそれをみて背中から食べると、驚いてすぐにふた口めを食べた。   「あふぅ、幸せ」  私もたい焼きの鯛の口のあたりからいただくと、熱々の生地に若干の塩気がアクセントになった餡の味が体を駆け巡った。  ほんのりと甘い生地に、上品な甘さの餡子のバランスが絶妙で舌が胃が喜んでいるのがわかる。  棘の無い甘みが余韻を残し、次に店員さんが淹れてくれたお茶は渋みはマイルドながら、餡子に負けない香りで口の中がリセットされたい焼きを引き立ててくれる。 「美味しい」  私が声を漏らすと、それを聞いた店員さんが「満場一致! ありがとうございます」と頭を下げてくれた。
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