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袋に残ったたい焼きを鞄にしまい、現状をどうやって打破しようかと考えていると、男の話声が近くでもきこえてくるようになった。
「あいつら、どこいったんだ!?」
「ねずみかよ、めんどくせぇ」
数は多くなさそうだが、どちらにしても子どもの私たちだけでは無理そうだ。
こんなときに彼が……。 彼――‼
急いでペンダントを取り出して蓋を開けると中央のボタンを長押しする。
これできっとあの人に私の居場所が送られたであろう。
なんで、このことを忘れていたのか、しかし、蒲生さんが到着するまでの間に捕まるわけにはいかない。 なんとかして逃げ切らねば。
「今、助けを呼びました。 もう少しで到着すると思いますが、それまでなんとしてでも逃げましょう」
「ま、待って! 助けって、もしかして蒲生さんかな?」
会長が緊張した面持ちになり、急にクネクネと体をねじっている。
わりと動きが生理的に受け付けないが、グッとこらえているものの、隣で速水さんは口を押えながら必死に笑うのを堪えていた。
なぜこのようになってしまうのか、以前から疑問に思っていたので聞いてみることにした。
「ねぇ、会長はなぜ蒲生さんの名前をきくだけで、その……、 えっと変になってしまうのですか?」
よい言葉が浮かんでこず、変と言ってしまった。
「えぇっと、それは兄がって、話せる状況じゃあないから、私が代弁しますと、強烈な憧れですかね」
強烈な憧れ? いったいそれはどういったものなのか?
「簡単にいうと、兄にとって蒲生さんは目標であり、決して届かぬヒーローでもあるんですよ」
鮎子の話をまとめるとこうだった。
以前、誘拐されたことは彼から聞いていたが、そのとき会長を救い出したが蒲生さんで、その時の蒲生さんが強烈に印象に残り、以降ずっと憧れているのだという。
少しでも近づくために筋トレを初めてみたり、勉強をしてみたり、挙句の果てにはもう一度誘拐されないかと、街中を一人でフラフラしてみたりと、会長は会長なりに一生懸命努力したようだ。
結果として、行動は自信に繋がり現生徒会長にも選ばれ学園を導く存在として活動しているが、それでも未だに会長の目標は彼のままで、風の噂で私の一件を聞いて調べた結果、蒲生さんに行き着き私にコンタクトをとってきた。
少しショックな気もするが、でも、今はそれなりに彼らと過ごす時間が僅かではあるが楽しく感じれるようになってきている。
どういった経緯であれ、私に興味をもってくれたことはとても嬉しい。
純粋な心をもっている会長のためにも、ここから抜け出さなければならない。
「へぇ、会長って超一途なんだね。 まぁ、私も似たようなもんだけど」
そう言って速水さんが、私をみて親指を立てて合図をしてくれた。
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