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その合図の意味を問おうとしたタイミングで、周りの男たちの声が近づいてくる。
急いで口を塞ぎ、ジリジリとその場から逃げ出すが、どうにもこうにも、相手の人数が多いので、囲まれていく。
それを突破しないかぎり、この路地裏からは抜け出せない。
もし仮に私以外が狙われているのだとしたら、助けてあげたいと思い、また、私が狙われているのなら囮ぐらいにはなれるかも、そんなことを考えてしまう。
蒲生さんは私の身をあんじ、そういった行いはダメと言うだろうが、考えはわかる。
それでも、体が勝手に動き出していた。
「ちょっと! 五色さんどこいくの⁉」
「ごめんなさい! きっと彼らの狙いは私なの、だから私が時間を稼ぐから逃げて」
今の会話が聞こえたのだろう。 いくつかの声が反応し急いでこちらに向かってくる気配がした。
私は皆と反対方向に走りだすと路地裏を繁華街の方角へ向かって走り出していく。
人通りの多い場所ならば相手も下手に手を出せないであろう。
「いたぞ! こっちだ! 画像の女と一緒だ!」
一つ向こう側の路地から聞こえてくる。
やはり、私が狙いだったのだ。 足場の悪い道を全力で向かっていく。
「待て! おい! 待てって言ってるだろぉ!」
脇の道から男が一人飛び出してくる。 避けようにも間に合いそうもない、目を瞑って体当たりしていくしかない。
体格差がありすぎるので、きっと私が弾かれてしまいそうだが、今は勢いに任せるしか作戦は無かった。
「捕まえたぁ――ブッ!」
正面から変な声がすると思い、目を開けると男が地面に仰向けに倒れてい居る。
近くには中身の入った缶ジュースが転がっており、後ろを向くと速水さんがブイサインをしながら早く行きなと叫んでくれた。
なぜ? 私のためなんかに、あのまま逃げてくれれば無事だったのに。
しかし、今は足が止まらない、せめて「ありがとう」だけでも伝えなければと思ったが、伝えるまえに彼女はまた路地裏へと消えていった。
再度前を向いて走っていく。 繁華街の音が聞こえだし、もう少しだと自分で自分を鼓舞していく。
もつれそうになる足に気合を入れ私は走る。
しかし、背後から凄いスピードで追ってくる影が二つあった。
小柄な男性と筋肉質な男性で下品な笑みを浮かべながら近づいてくる。
すぐに追いつかれ、ほんの少しで脱出できたのに最後の最後にこうなってしまうなんて……。
走る足を緩めそうになりかけたとき、後ろから小柄な男性が鈍い悲鳴をあげながら後ろに向かって倒れていく。
「うっし! やってみるもんだねぇ、しかも教科書たんまり入っているし」
鮎子がもっている学生鞄を路地脇からおもいっきり振り回したようで、身長差があまりないためか、顔面に当たっていた。
それに教科書の重みが加わるなんて、考えただけでゾッとする。
「チッ! このぉ!」
最後に筋肉隆々の男性が叫びながらきた。 あと十歩程度で出られるのに。
「ぐぬぉ!」
しかし、その手は私を掴むことは無かった。
その男性に比べるとまるでマッチ棒かと思うほど細いが、その腕はきっちりと背中から腹筋にかけて捕まえていた。
「か、会長!」
「な、なんだこのガキが! 離せ! ぶん殴るぞ!」
「わ、私は! あの人にどうしても近づきたい! だったら目の前で友を見捨てることなどできるかぁ!」
心臓が飛び跳ねるほど感情が高ぶっていく。
私のことをそう言ってくれた人はいない。 薄い関係を浅く築いてきた今までの人生で初めての体験だった。
「なに偉そうに、この離れろ! めんどくせぇ!」
男の肘が会長の顔面に放たれそうになった。
「あ、危ない!」
今から助けに行っても間に合いそうもない。 しかし、私が走りだそうとしたとき、その肘打ちは誰かの手によって止められていた。
「はい、皆様ありがとうございます。 よく耐えましたね」
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