田村兄妹

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 どこから現れたのか、男性の肘から会長を助けたのは他でもない蒲生さんだった。  にこやかな笑顔でいながら、片手であの男性の肘を止めている。 「さぁて、言いたいことは山ほどありますが、とりあえずは現状をどうにかしないといけませんね」 「はぁ! なんだこの優男は! てめぇのようなヤツが出しゃばる場面じゃねんだよ」  肘を手から抜くと腰の回転を利用し、会長ごと後ろを振り向くとその勢いのまま強烈な突きをくりだした。  しかし、その突きも彼の左手一本で止められると男性の顔色が一気に変わる。 「うぐぐぐぐ! う、動けねぇ!」 「いや、本当はあまりこういったことをしたくないのですが……」  蒲生さんの細い瞳が開かれる。 少し興奮しているのか充血しかけた目が相手を睨みつけた。 「少々昔を思い出してしまうんですよ!」  相手の右腕を掴んだ左手で捻ると男性の腰が浮いた。  会長は慌てて手を離すと同時に腹部に蒲生さんの右足の蹴りが入る。 「ぶべぇ……‼」  綺麗に入ったかと思ったら、そのまま数メートル飛ばされコンクリートの壁に当たって気を失っていた。 「凄い……」  私と会長が驚いているところに、速水さんと鮎子も合流し現状をみて驚いていた。 「えっと、とりあえず警察呼ぶ?」  鮎子がいち早く警察に対し連絡を入れてくれた。 未だに周りでは違法改造車両の音が僅かに聞こえるので、警察も苦戦しているのかもしれない。  速水さんは突然現れた彼に対しどう対応してよいのかわからなそうにしている。  会長は腰が抜けたのか放心状態でただ蒲生さんを見つめていた。  そんな会長に彼は近寄っていくと優しく手を差し伸べる。 「ありがとうございます。あなたの勇敢な行動により助かりました」 「え、えっと」  差し出された手を握り返し、勢いよく立ち上がる。 「きっとあなたは今以上に強くなります。それは肉体的なことばかりではなく、心も強くあるべきです」  優しい笑みで話しかけられている会長は彼の言葉を聞いて少しだけ、頬を涙が伝っていく。 「さぁ、皆さん帰りましょう、あとは警察に任せて」  パンパンと手を叩きながら帰るように促し始める蒲生さん、本当ならば警察が到着するまでここに残っていなければならないと思うのだが。  異様な雰囲気を彼から感じ取った私は、何も言えずに車に向かって歩いていく。    
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