田村兄妹

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田村兄妹

 念のため次の日も学園を休むことにした。  お父様は状況を聞いて、すぐに帰ってきたが私の無事を確認すると、情けなく泣いて休んでいる蒲生さんの元へ行って感謝を述べていた。  母にも一応連絡を入れたが、特に驚かず逆に蒲生さんについて詳しく質問されてしまった。 『ねぇ、(めぐ)……。 その人ってイケメン?』  何をこの人は言っているのだろうか?。  無事であることは電話している段階で分かっているので、そこはサラリと流され、なぜ彼のことを聞きたがるのだろう? 「そ、そうね。 顔は整っていると思う」  それを聞いて、あからさまに喜ぶ母になぜか疲れてきた。 『ねぇ! ねぇ! その人の写真ない! あったら送ってよ♪』 「む……⁉。 なんでですか?」 『だって、凄く重要なことなの、愛は私に似てとびきり可愛いの』  だから、それがどうしたと言うのか。  そもそも、私は自分を可愛いと思ったことなどない。  むしろ、自分に自信が持てずに日々苦労しているのに。  その後も他愛のない会話を繰り返したが、通話をきって気が付いたことがる。  それは、母のなんとも言えない会話の流れが自然と私の体の力を抜いていたのだ。  不思議なことに、途中イライラする場面もあったが、端末を枕の下に入れて横になると安堵している自分がいた。   「疲れた」  休んだのにかかわらず、やることが多かったせいか思いのほか疲れている。  うつ伏せに寝転んだとき、胸に違和感を覚え取り出すとカランコエをモチーフにしたペンダントがでてくる。  それを指でなぞると、彼の顔が脳裏に浮かんできた。   「……」  もう一度枕の下に手を伸ばし、端末を取り出しペンダントを開くと、中央のスイッチを押してみる。  するとすぐに私の携帯電話に着信が入った。 「もしもし」 「お! お嬢様! 大丈夫ですか! 今向かっております!」  おそらく怪我をした足で全力でこちらに向かってきているであろう。  ずいぶん悪いことをしてしまったと思い、素直に打ち明けた。 「ご、ごめんなさい。 とくに大変なことはないの」 「え――? 大丈夫なのですか?」  安堵したような、心配したような複雑な声が聞こえてくる。 「そう、本当にごめんなさい。 ただ、本当にこれを押すとあなたに通じるのか不安になって」    怒られるかと思った。 酷い怪我なのに無理をさせてしまった。 「なんだ、そんなことですか……。 それなら心配いりませんよ。 私はお嬢様のためならいつだって駆け付けます」  走るのをやめたのか、雑音が聞こえてこない。 「そう、それを聞いて安心した。 本当にごめなんさいね」 「いいえ、お気になさらずに、それに怪我は思った以上に軽傷でしたので」  最後に明るい声も聞かせてくれる。  本当に良い人だと思った。 「それならいいけど、ゆっくり休んでね」 「はい、お嬢様も」  お互い『おやすみなさい』を言い合い通話を終えると再び枕に顔を埋める。  彼には悪いことをしてしまったが、なぜか私の心は満たされた。  こう、何とも言えないフワフワとした感じが胸を中心に広がり、例えがたい幸福感をもたらしてくれる。 「不思議……」  この変な気持ちの正体がなんなのかわからないが、瞳を閉じると彼が私を抱えて守ってくれたときの記憶が蘇ってきた。  それを思い出すだけで、また胸に違和感が膨れる。      
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