零度のピグマリオン

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 先日、とある男性の自宅で開かれたパーティーにお招きいただいた。  取引先の社長を介し御目通りかなった主催者は初老の氷彫刻家で、アイスカービング大会で何度も優勝しているという「凄腕」の持ち主だった。  私は明るくなかったがその道の人には有名らしく、硬くて冷たい氷の塊が彼の手にかかれば変幻自在。  きらびやかな表情を魅せ始め、内なる炎を宿すがごとく情熱的な息吹を放つ、ように感じるのだそう。  そこから"零度のピグマリオン"なんて異名もつけられているとか。  ならばその隣で来客をもてなす婚約者の女性はガラテアとでもいったところなのだろう。ゆくゆくは夫となる彼よりもいくらか若く、透き通る肌が美しい人だ。  このパーティーは祝勝会でもあり、近々入籍する彼女のお披露目も兼ねてとのだった。  なんでも氷彫刻師にとって初めての結婚ではないという。  談笑した際「彼女は4人目の妻なのです、お恥ずかしい話で」と彼は謙遜しており、深入りするのもはばかられたため、私は詳しいいきさつを聞かずに会を後にした。  これまでの妻には先立たれたのか、はたまた逃げられたのかはわかないが、才能ある人だけに今度こそ幸せを掴んでほしいものだ。  後日、彼の「冫妻 腕」ぶりは日の目を見るところとなり世間を大きく騒がせた。
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