私を知ってる 知らない君と

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甲高い目覚まし時計の音が人の都合などお構いなしに鳴り響き、ベッド横の窓にかかる可愛らしい花柄のピンク色のカーテンの間から差し込む陽の光が、今日の始まりを否応なしに知らせた。 珍しく洗面所戦争をせず独占しながら顔を洗い、制服に着替えてテーブルにつき、いつもより焼き色の濃くなった食パンにオレンジ色のジャムをたっぷりと塗って時計を気にしながら口に押し込む。 キッチンに立っている母親と斜め前に座ってヨーグルトの入ったガラスの器を持ったままの兄との怒鳴り合う声が頭上を飛び交い、誰も見ていないテレビからは今日も殺人事件のニュースが流れる。 ただただ、いつもの光景だ。 「行ってきまーす」 玄関でドアを開けるときに言ったけれど、奥から聞こえるのは未だに母親と兄の喧嘩する声。 我妻奏は再度部屋の中に声をかけるのを諦め、家を出た。 今日は母と兄の喧嘩に巻き込まれ、家を出るのが少し遅くなってしまった。 電車の時間を気にしつつ足早に住宅街を抜け駅前の信号が青になるのをイライラしながら待ち、青になった瞬間踏み出そうとした。 そのすぐ目の前を、風を切って走り抜けたのは赤い軽自動車。 奏以外の駅に向かう人々も呆然と立ち止まり、ものすごい勢いで走り去っていくその車をただ見ていた。 あと一歩先に進んでいたなら、おそらく轢かれていた。 奏は血の気が引く思いをしながら、一瞬止まってしまった身体に活を入れ、いつも乗る電車に急ごうと鞄を持ち直し走り出した。 駅のホームでは駅員の大きな声がスピーカーから何度も流れ、ラッキーな事にいつも乗る電車が遅れたのか、奏では、駆け込まないでください!という駅員の声を無視し、電車に滑り込んだ。 人でぎゅうぎゅうの電車に乗れば、鞄は違う方向に持って行かれるし、身体も四方八方に引き延ばされるようだ。 いつにも増して混雑した電車の中で、今日はダイヤが遅れたせいかいつもよりスピードが速い気がするなとぼんやり思いながら、必死につり革に掴まり学校へ向かう。 やっとの思いで学校に着けば、またいつも通りの学校生活の始まり。 中学生の時は高校生になれば色々大人になるわけだから特別な事が起きるのだと勝手に期待していたが、現実はそうでは無かった。 高校二年生になって既に二週間くらい経っていたが、何も変わらない平凡でつまらない日常に、教科書を机に出しながら、何か面白いことが起きないかな、出来れば素敵な事が起きたら嬉しいのになぁと奏はため息をついた。
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