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そこまで言うと、愛斗はわあっと声を上げて泣いた。今までずっと押し殺していた感情をむき出しにするかのように。美波はまずいものを見られていたのだと、心が逸る。翔悟にはだれにも言わないように、隠し通すようにと言われている。愛斗は自分が好きな相手が男だったのが嫌だったのか、それとも付き合っている人がいるのが嫌なのか、それとも両方なのか、美波は気になった。
美波も同じ感覚をいつも覚えていた。美波が好きになるのはきまって女子ばかりだった。美波からしたら当たり前のことだ。美波は女じゃないからだ。一般的な男は女を愛する。それに不自然なことはない。現に今も、美波は恋をしている。今まで好きだった子とは付き合ったことがない。ただ、友人として接してくれてるだけで中学生までは良かった。自分の本当の性について知られてしまって、距離を取られるくらいなら、自分の中で葛藤するほうがよかったからだ。でも、今の恋愛はそれ以上を求めていた。成長した高校生の身体は、心とは反して、欲求をかき乱した。
「だからといって、翔悟がその男子と付き合ってる確証はないんだろ?」
美波は突き放すように言う。それでも愛斗はかぶりを振って、叫ぶ。
「違うんです。付き合っているんです。こないだも一緒に下校していたし、最近は食堂でお昼も一緒に食べています。先輩は知っていて知らないふりしていませんか? 僕は、男じゃないから、先輩に好きになってもらうことができません!」
「えっ」
美波はあっけに取られた。愛斗は、美波と同じくトランスジェンターだと云うことなのだろうか。いや、しかし。身体は男なのだから、仕組としては大丈夫な気が美波にはした。美波は軽く頭の中が混乱する。美波はそのモヤモヤした胸のうちを愛斗に訊ねることにした。
「あのさ、言いにくいけど聞いていい? 風間くんって、トランスの子?」
たどたどしく言うと、愛斗はまたかぶりを振って、
「僕は女性でも男性でもありません。僕はそんな枠に当てはまらない、メンヘラなんです」
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