甘酸っぱい未熟な果実

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 そこまで言うと、愛斗は手首を見せた。そこには数本の刃物で切りつけたであろう、リストカットの跡がいくつも残っていた。まだ治りかけのものもいくつかあった。近くで歌っていたが、手首には気づかなかった。いつも気になっていたのは愛斗の向ける視線ばかりだったからだ。 「そっか。とにかく、風間くんの言いたいことはわかったよ。今度、翔悟も誘って、君も自分のやってるバンドのライブにおいでよ。翔悟も君のことを知ったら、仲良くなれるかもしれないし。こっちも動員が少しでも多いと助かるし」  美波は咄嗟にそんなことを言ってしまったが、今の愛斗をなだめる手段をそれ以外持ち合わせていなかった。愛斗はそれを聞くと、今まで泣いていた涙を止め、腫らした目を大きく開いて笑った。 「本当ですか? 僕、嬉しいです。やっぱり佐藤先輩に相談してよかった」 「そう。ならよかった。とりあえず顔洗って教室戻ったら? 自分はまだ練習したいし」 「すみません、練習の邪魔して。また部活で」  そう言って愛斗は自分のハンカチで顔を丁寧に拭うと、会釈をして出て行った。美波にとって、またひとつ、考え事が増えた。
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