甘酸っぱい未熟な果実

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 愛斗に打ち明けられた美波は、その日の放課後、教室でぼんやりしていた。この後、音楽室に行かなければならない。今朝愛斗に告白されたことを、まだ翔悟に伝えるべきか悩んでいた。美波は深いため息をつくと、ギターケースからレスポールを取り出し、簡単なギターコードを弾いた。ビートルズの「Let it be」。曲中の和訳は、「自分らしく、素直に生きればいい」。美波は軽くコードに合わせて口ずさむ。サビを歌い終えたころ、教室の扉を開けて入ってきたのは、翔悟だった。 「ビートルズか」 「……うん。初めて覚えた曲」 「俺が最初に覚えた曲はエリーゼのためにだったな」 「そういやそうだったね」 「お前がその曲を弾いてるときはなんかあったときだろ」  翔悟が顔をしかめて美波の顔を覗く。美波にとって鋭い感覚を持っているのは翔悟だ。ついつい弾いてしまった曲だったが、まさか翔悟に聴かれるとは思っていなかった。この曲を弾いてると、美波はどこか心を空っぽにすることができた。「自分らしく、素直に生きればいい」。  美波と翔悟はお互いがお互いのことをよく知っているから、悟られないよう美波はぶっきらぼうに答える。 「別に。たまにはいいかなと思って」 「元気ないじゃないか。いつものあれか?」 「ううん。違う。そんなんじゃないけど。なんとなく」 「そうか。じゃあ、今日は発声練習から参加するよう、部長がうるさくてな。さ、行くぞ」  翔悟が美波のスクールバッグを持つと、美波はギターから視線を外さず、ぼそりと呟く。 「翔悟。自分たちはおかしくなんかないよな?」 「……うん。俺たちはおかしくなんかない」  翔悟が透き通った低い声で言った。翔悟自身もその言葉を口にしたら、どこか安堵した。翔悟も実際のところ、この頃いつも自分と闘っていた。今まで感じたことのないいけないことをしているような、それでいてエキサイティングな、心のざわめき。大切なものに触れると脳がアドレナリンで溢れる気がする。それでも身近に美波もいて、今付き合うことにした相手のことを考えると、自分の中ですとん、と落ち着かせられた。
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