交差する想い

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 美波は愛斗から翔悟への想いを聞いてからというもの、合唱部に顔を出すと落ち着かず、目のやり場に困っていた。翔悟にも愛斗にも顔を合わせないといけないし、それでも夏のコンクールと、朝に自主練をするためにも、課された合唱部の助っ人はしっかりやらないといけない。果たさないといけない約束ですら破りたくなっていた。 あれから一週間近く経つが、家に帰ってもなんとなくぼうっとしていて、適当にやり過ごしていた。そんな中、バンドメンバーに会い、スタジオ練習もあった。次のライブまであと一か月。それまでに新曲が欲しいとリーダーから言われ、そのモヤモヤとした心のノイズを晴らすために、新曲の制作をしようとギターで色んなコード進行を試していた。 ギターの弦に指が触れるとどこか、指先から不純物が出ていくようだった。ギターの弦が震えるたび、それを感じる。美波はそのギターのアンプに通していない、掠れた音にどんどん吸い込まれていくようで、それも違った心地良さがあった。アーティストが「天から降ってくる」と表現するのがなんとなく分かるような気がする。浮遊する心。ギターのコードが乗ってきたとき、スマホのメール着信音が鳴った。相手は翔悟だった。どきん、と胸が騒いだ。 『お疲れ。明日の朝、時間あるか?』   今日は日曜日。明日は学校に登校しなければならない。今の時間は夜の九時を過ぎたころだ。翔悟がこんなメールをしてくるときはきまって相談だろうとは思った。実際、翔悟が今の恋人と付き合い始めてから、一緒に帰宅することは減ったし、この一週間は一度も一緒に帰宅したことがない。合唱部では人目があるし、おおっぴらに話をすることもできずにいたから、美波も消化不良のままでいるより、一度二人きりで話すのも悪くないなと思った。いつまでもこのまま親友との間に出来た勝手な不純物に足元を絡め取られたままよりはいい。美波はすばやくフリック入力でメールを送信する。 『大丈夫だよ。朝七時に音楽室でいい?』   送ると、すぐに返信が来て、『了解』と返ってきた。美波はスマホを置くと、またギターを触った。初夏の自室は湿気が多く、どこかレスポールも湿っているように思えた。
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