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「俺、どうすればいいかわかんなくて。とりあえずなすがままにしてみたんだけど、その、なんていうか。俺って本当はどっちが好きなんだろうって」
「どっちって、性別のこと?」
「……そう」
「ふぅん。そっか。元カノのこと、好きだったんだよね?」
「うん」
「で、今の子も同じように好きなんだよね?」
「……うん」
「そしてあれもできてしまったと」
「そう」
「なら、それが翔悟なんだからそれでいいんじゃない? 翔悟は遊びなんかするような軽いやつじゃないしさ。好きだから良くんともしたんでしょ?」
「うん」
言うと、翔悟はまた、はは、と笑顔で顔を掻いた。美波はその笑顔を久しぶりに見て、満足だった。半面、やっぱり羨ましい、と思った。
「だから、月光なんか弾いてたんだね。このロマンチストが!」
言って美波は翔悟にデコピンをする。翔悟は「あはは」と今度は大きく笑った。
「自分も彼女欲しいなー」
美波は椅子を思い切り後ろにもたれて大声で叫ぶ。ゆらゆらと腰で椅子を揺らしながら、美波は口を尖らせながらも頬が緩んだ。翔悟はそれを見て、いつもの美波がそばにいることに安堵する。
「あれだろ? 対バンしてるあのボーカルさん」
「そそ。来月のライブでもまた対バンする」
「絶対観に行くから」
言って翔悟が歯を見せて笑うと、美波の背中を叩いた。途端、美波は愛斗のことを思い出した。翔悟と一緒にライブに来てくれと云ったあの約束。ふわりとしていた感覚からすっと引き戻された。言うなら今だ、と美波は翔悟に向き合った。
「あのさ」
「うん?」
「今度のライブ、風間くんも誘って一緒に来てくれない?」
言うと、翔悟はどうして、と云わんばかりに顔を歪める。
「良じゃなくて風間を誘うのか?」
「……ダメかな?」
美波は眉間に皺をよせる翔悟を見て、祈るように答えを待った。翔悟はうーん、と腕を組んでしばらく口を固く結ぶ。
よくよく考えたら、今翔悟は男子と付き合っていて、翔悟も薄々気づいている愛斗からの好意、その両面からすると、あまり良いことではないのだと、今更ながらに美波が気づいた。美波からすると、美波が男子と一緒にいるのは普通で、女子とどこかへ行くとなると、デートのように感じることと同意なのか、と自分がしてしまった約束の重みが急に失態としてのしかかってきた。美波は慌てて、
「ごめん! 今言ったことはなしにしてくれていい」
手を合わせて翔悟に謝ると、逆に翔悟がその姿を見て、長い間友人をしている者しか分からない様子が窺えた。そして美波に強く吐く。
「お前、なんか隠してるだろ?」
気づかれてしまった。もう隠せない、そう思った美波は、先週あったことを正直に翔悟に話した。
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