交差する想い

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 美波は校舎を出た。もうすぐ太陽が一番強くなる時期が来る。夏服のセーラー服にジャージを履いていると、下半身がとくに熱をもつ。背中にじとりと汗が染みこんで、ボクサーパンツの締め付けがキツイ。校舎と違って外は、住宅街が広がっており、そこにいる人々は学校の生徒から、スーツ姿の男性、主婦だと思われる中年女性の大荷物を積んだ自転車。いつも通りの景色がそこにはある。重いギターケースを両手で抱え、行きかう人々の群れを無視し、思い切り走って、1キロ先のバス停へ向かった。 「間に合った」はあはあと息切れしながらバスに乗り、窓際の一人用の席を確保した。これから翔悟の家へと向かう。ポケットからスマホを取り出し、翔悟にメールを送る。『今から行くから。何がなんでも』。   二十分ほどバスに乗って、翔悟の家の近くのバス停で降りた。そこからまたギターを抱えて走り出す。普段運動なんて授業くらいでしかしないから、運動不足の身体は熱く、火照っていた。   翔悟の家の玄関にたどり着くと、チャイムを鳴らす。しばらくしても出てこないから、もう一度鳴らした。すると、翔悟がスウェット姿でけだるそうに出てきた。 「翔悟。中入っていい? 話がしたい」   肩で息をしながら美波は言う。翔悟は美波の目を見たら、苦笑いを浮かべた。 「入れよ」   言って、翔悟は親指で家の中を指した。するとすぐに美波は笑顔になった。   翔悟の家は二階建てで、玄関には熊が鮭にかじりついている置物と、胡蝶蘭の鉢、家族写真が置かれていた。翔悟が高校に入学したときに撮った、入学式の校門での家族写真だ。ぎこちない笑顔の翔悟がそこにはいた。
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