甘酸っぱい未熟な果実

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 ギブソンのレスポールは兄から譲ってもらったものだった。美波は幼いころから両親の影響もあり、ブリティッシュロックで育ち、今ではライブハウスで定期的に活動をするインディーズバンドのギタリストになっていた。ネットで簡易的なMVを流したり、ホームページを作ってそこに活動内容を広告したり、十代が集まって作ったバンドとしては、コアなファンを集めている。美波たちの音楽はオルタナティブ系としては軽やかなメロディを特徴とした音楽を奏でていた。  美波はギターのチューニングを終えると、スマートフォンーでバンドのデモを流し、イヤホンを付け、ギターをかき鳴らす。ネックを優しく握りしめて、右手で三角のピックを人差し指と親指でしっかり支えると、手首だけに力を入れ思い切りリフを刻む。カチャカチャとアンプに通していないギターは乾いた音を立てる。いつも思うのは、この自分の違和感を音が全てどこかにもっていってくれる、それだけを想像してギターを弾いていた。美波にとって音楽とは、自分の在り方だった。  美波のバンド、「CHILD SPIRITS」は、美波の他は他校の生徒で構成されいる。音楽好きが集まるSNSのグループで知り合った息の合うもの同士が集まり、結成したものだった。美波の違和感については他のメンバーは知らない。美波以外のメンバーは全員男で、美波は一般的には紅一点、といったところだが、他のメンバーはなんとなく美波のサバサバとした雰囲気に特に何か気にかかることはないようで、それが美波にも丁度よかった。  美波は楽曲も作っており、美波の作る楽曲のファンは多かった。特に、バラードを作らせると人気が高く、そして同時に美波のファンで女の子も多く存在していた。中世的な雰囲気と、ギターを一心不乱にかき鳴らすその姿に酔うようで、楽曲に合わせてファンのヘッドバンキングや、声援が響くライブハウスは最高の場所だ。美波にとってライブハウスの照明が照りつけるステージは最高の快楽だった。自分がどこか大きく羽ばたけるような感覚に溶けていけるからだ。美波の相棒のレスポールも、エフェクターも、アンプも、バンドメンバーで奏でる音楽も、全て、美波の存在を曖昧にしてくれるものだった。  夕暮れ近づく、ひとりきりの教室で、目を閉じてギターを鳴らしていたとき、ふとイヤホンが誰かに外された。美波は驚いて目を上げた。
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