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翔悟の秘密。それは翔悟が今付き合っている人のことだった。ここでひとつ断っておきたい。翔悟は美波とはまた違うということ。美波は自分を女だと認識していないが、翔悟は自分を男だと認識している。だが、今付き合っている相手の性別は同性であるということ。ただし、翔悟は中学のとき、女子と付き合っていたことがある。美波と翔悟の秘密というのは、こういう繊細な問題だった。
美波は「あっそ」と告げると合唱部員の方へと戻っていった。実際のところ、翔悟も愛斗のことはずっと視線を感じていたから、鋭い美波に気づかれ、はぁ、と深く嘆息した。気が重い。
音楽室の王子様たちは、どこでも目立つ存在ではあった。
美波はネットにもアップされているし、ライブも盛んにしているし、翔悟はルックスもよく、頭も良い。健康的な男子はどうしても女子の目をひく存在である。ただ、その二人の共通点は、男女ともに好かれるというものであった。王子様の名は伊達ではない。美波は演劇部からもスカウトが来るくらいだし、翔悟は体育の時間に女子からの視線をかっさらう。そして放課後は美しい旋律を奏でる。放っておくほうがおかしいといっても過言ではない。
愛斗は、前髪を長くして、それをピンで止め、襟足まで長い髪をはらはらとなびかせ、細い目でじいっと反省会の間もピアノを目の前にする翔悟を見ていた。彼の声は彼の容姿のようにか細かった。何かを伝えたいけど、伝えられない。そんな感じが美波はしていた。
何度も曲を通して、外は夕焼けが藍色になってきたころ、部長から解散の指示が出た。
「翔悟、帰ろうか」
美波が楽譜を片付けている翔悟のところへ行くと、翔悟は「悪い」と云って、カバンからスマホを取り出す。
「ああ、相方さんが待ってるんだね」
「すまん。やっぱり連絡入ってた。教室で待ってるみたいだから俺、先に行くわ」
「いいよ。また何かあったら教えてよ」
「おう。おつかれ」
「ばいばい」
お互い手を振ると、そそくさと翔悟は出ていった。部長にだけ頭を下げ、他の誰の顔も見ずに音楽室から出て行った。その後ろ姿を寂しそうに見送る、愛斗の姿があった。
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