雨の日

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雨の日

 鬱蒼とした森林、青々とした草木が生命の鼓動を響かせる大自然。人の手が届かないそこに熊よりも大きい体躯の白い毛並みをした犬が住み着いていた。  犬といってもただの犬ではない。何百年という長き時を生き、神格を得た神に類する存在だ。名をアラヤという。  岩壁にぽっかりと空いた洞穴の中で暮らす彼は、人を毛嫌いしていたそうだ。過去に何かがあったのか。それとも欲深き人が受け付けられないのか。はたまた別の理由か。  答えを知るものは、彼以外にいなかった。  アラヤは洞穴の中で座り込み、外で音を鳴らす雨を眺めていた。   「ひゃー! どじゃぶりだー!」  ひとつ、聞き慣れない声と共に小さな影が洞穴に入ってきた。目を細めるアラヤ。見れば年端もいかぬヒトの子であった。真っ黒な髪と炎のような鮮やかな赤い色の瞳をした少女。彼は苛立たしげな息を漏らす。 「何用でここに参った、ヒトの子よ」 「わわっ!」  威圧感のある声が少女に問いかける。突然声をかけられた少女は、驚きのあまり飛び上がる。声の方を見やった少女は、アラヤを発見すると息を呑んだ。  無理もない。熊よりも大きな獣がすぐ近くにいるのだ。飛びかかられれば、逃げる間もなく喰い殺されてしまうだろう。加えて人の言葉を話す獣だ。未知なる存在は恐怖の対象だ。それは、幼き少女であっても例外ではない。
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