01 庸介という男

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「慎ちゃん、最近どう?」 「どうって何が?」  いつものやつからね、と差し出されたジントニックを傾けながら、慎はチラリと目をカウンターの方に向ける。  ユウタは子狸のような可愛らしい顔をしかめて、腕組みをしながら慎に顔を近づけた。 「とぼけないでよ。最近ドキドキしてんのかって聞いてんの」 「ドキドキ、か……」  グラスに反射する照明の光を見つめながら、慎は仲谷の顔を思い出していた。 「最近、結構いい男に出会ったよ。電車の中でじっと見つめられて、ちょっとドキドキしたかな」 「えー? どんな男?」 「なんかチャラそうな感じ。女連れだったし、バイかも」 「ふうん……」 「実はさ、一昨日、その男に名刺渡されたんだよ」 「うそっ、それナンパってこと?」 「ビミョー。よくわからない」  ユウタは身を乗り出すようにして慎の話に食いついていたが、溜息をつくと、「やれやれ」といった風に額に手を当てた。 「あーもう。慎ちゃん、絶対その男にハマりそう……」 「なんで?」 「だって慎ちゃんって、そういう男好きじゃん。元彼もバイの色男だったし」 「……」  ユウタの口から出た『元彼』という言葉に、ピクリと反応する。過去の甘い思い出と、苦い思い出の両方が蘇ってきて、慎は黙り込んでしまった。  その様子を見て、ユウタは何か思うところがあったらしい。慎をさりげなく気遣うように、穏やかな口調で言った。 「慎ちゃん、そろそろ新しい恋してもいいんじゃない?」 「……」 「でも僕は慎ちゃんが泣くとこなんか、もう見たくないな。だから……慎重にね」  ユウタは小首をかしげて、心配そうに慎の顔を覗き込む。 「心配しなくても、俺は大丈夫だよ」  慎は苦笑いをして、またグラスを傾けた。心の中で、「本気になるつもりなんか無いから」と付け加え――いや、自分に言い聞かせるようにして。  そんな慎の(かたく)なな態度に、ユウタは眉尻を下げて苦笑いしていた。
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