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次の日の午後、慎は予約した時間よりも少し早く、仲谷庸介の務める美容院に到着した。
自宅のある江東区の駅から、地下鉄で新宿区へ。仲谷が「場末」と言った通り、その店舗は大通りから一本外れた場所にある、昭和感溢れる古い雑居ビルの一階に入っていた。
しかし小さな店ではあるが、小綺麗な雰囲気だ。慎はシャツの襟元を直してから、扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
受付付近に立っていた若い女の店員が、ペコリと頭を下げる。つられて会釈しながら、慎はカウンターに近付いた。
「2時に予約を入れた者ですが」
「初めての方ですね。お客様カルテを作りますので、よろしければこちらに記入を――」
記入用紙を受け取った時、店の奥から見覚えのある顔がひょっこりと姿を現した。
「こんにちは」
仲谷は慎を見ると、ニッコリと笑った。慎も会釈して、微笑む。
「どうも」
「思ったよりすぐ来てくれて、嬉しいです」
声を弾ませながら、仲谷はカウンターに立っていた女と入れ替わる。
慎は記入用紙に住所や氏名、簡単なアンケートの回答をサラサラと書いて、仲谷に手渡した。
それを受け取ると、仲谷はじっと紙面を見下ろし
「みねむらしん。へえ……峯村慎さんっていう名前だったんですね」
と、妙に感慨深そうに言って、目尻を下げた。
「あっ、同い年なんだ。オレも今年26歳です。――こちらにどうぞ」
慎を席まで案内する間も、仲谷は紙面をまじまじと見つめたままだった。
促されて、大きな鏡の前に設置された椅子に腰掛けると、鏡に映った慎に向かって仲谷は語りかけた。
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