671人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
* * *
「峯村さんは、この辺の生まれの人?」
「違う」
「出身どこ?」
「長野」
「長野のどこ?」
「御代田ってわかる? 軽井沢の隣」
「ふーん、行ったこと無いな……」
ハサミを動かす間、仲谷はひっきりなしに慎に質問をし続けた。同い年ゆえの気安さか、気が付けばすっかりタメ口になっている。
「そっちは?」
「出身? ずっと東京だよ。生まれも育ちも新小岩」
頬の上にパラパラと髪の毛が落ちて、むず痒い。ほんの少し顔を歪めると、仲谷はそれに気付いたのか、慎の頬に向かってフーッと息を吹きかけた。
頬に当たった息が、ついでに敏感な耳を撫で上げて、ぞくぞくと産毛が立った。慎は飛び退くようにして、すぐ側にある顔を凝視した。
仲谷はいたずらっぽく笑って、何食わぬ顔でまたハサミを動かし始める。
――こういう時は普通、刷毛か何かを使うものだろう!
気恥ずかしいような、からかわれてくやしいような気分で、慎は頬や耳を熱くした。
「峯村さんは、恋人いるの?」
「……今はいない」
「へえ、格好いいのに勿体無いな」
「いやいや」
「お世辞じゃなくて本当に」
「……」
「ガタイもいいし、男っぽくていいよね。眉毛が凛々しくて、和風の美男子って感じ。オレ、奥二重の人って好きなんだ」
最初のコメントを投稿しよう!