01 庸介という男

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 * * * 「峯村さんは、この辺の生まれの人?」 「違う」 「出身どこ?」 「長野」 「長野のどこ?」 「御代田(みよた)ってわかる? 軽井沢の隣」 「ふーん、行ったこと無いな……」  ハサミを動かす間、仲谷はひっきりなしに慎に質問をし続けた。同い年ゆえの気安さか、気が付けばすっかりタメ口になっている。 「そっちは?」 「出身? ずっと東京だよ。生まれも育ちも新小岩(しんこいわ)」  頬の上にパラパラと髪の毛が落ちて、むず痒い。ほんの少し顔を歪めると、仲谷はそれに気付いたのか、慎の頬に向かってフーッと息を吹きかけた。  頬に当たった息が、ついでに敏感な耳を撫で上げて、ぞくぞくと産毛が立った。慎は飛び退くようにして、すぐ側にある顔を凝視した。  仲谷はいたずらっぽく笑って、何食わぬ顔でまたハサミを動かし始める。  ――こういう時は普通、刷毛か何かを使うものだろう!  気恥ずかしいような、からかわれてくやしいような気分で、慎は頬や耳を熱くした。 「峯村さんは、恋人いるの?」 「……今はいない」 「へえ、格好いいのに勿体無いな」 「いやいや」 「お世辞じゃなくて本当に」 「……」 「ガタイもいいし、男っぽくていいよね。眉毛が凛々しくて、和風の美男子って感じ。オレ、奥二重の人って好きなんだ」
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