671人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
仲谷の質問は、段々と露骨なアプローチになりつつある。慎は苦笑いして、視線を上げた。
「この間連れてた彼女は、線が細くて目元のパッチリした美人だったような気がするけど?」
「好みの女と、好みの男は違うんで」
もう正体を隠す気すら無いらしい。
喉の奥でくつくつと笑っていると、仲谷は慎の後頭部の辺りに手鏡を近づけた。あらかたカットを終えたようだ。
改めてヘアスタイルを確認する。鏡に映った慎は、無難なビジネスショートヘアから、さらにさっぱりとしたスポーティな短髪になっていた。
「どう?」
「こんなに短いの、久しぶりかも。なんだか襟足がスースーするよ」
「これから暑くなるし、丁度いいじゃん。やっぱり頭の形が綺麗だから、ベリーショートが似合うなあ」
そう言って、仲谷は慎の髪を撫でる。襟足から後頭部、それから頭のてっぺんまで。短くなった毛足に手のひらがジョリジョリと引っかかって、悪寒にも似た妙な心地がした。
「スゲーいいよ……峯村さん、めちゃくちゃオレのタイプだ」
鏡越しに視線を絡ませながら、仲谷はうっとりと掠れた声で囁いた。
その押しの一言があまりに直球すぎて、慎は赤くなりながら「どうも」と曖昧に答えた。
最初のコメントを投稿しよう!