01 庸介という男

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 コックをひねり、高い位置に固定したシャワーヘッドから水が滴り落ちるのを、まるで雨空を見上げるかのように見つめ、目を閉じる。冷たかった水はすぐに暖かい湯になり、慎の隆々とした筋肉の陸を滑り落ちていく。  そうやってじっくりと時間をかけて体を温める間、無心になろうと努力したが、慎の瞼の裏には庸介の顔が浮かんでいた。  電車の中で会った時の、あの妖しい眼。至近距離で見つめ合った時の、柔らかな視線、「また会いたい」と言った時の笑顔――  パチン! と何かが弾けるような、微かな音がした。  降り注ぐシャワーを顔面で受け止めながら、薄目を開けてみる。――浴室が暗い。どうやら、電球が切れたらしい。  ゆっくりと視線を下ろす。暗くなった浴室の中に、背後の脱衣所の明かりが差し込んできている。そして体の盾が作った影の中で、自らの欲望の証が鎌首をもたげ始めている。その光景を、慎はぼんやりと見下ろした。  根本を摘んで上下に振ると、濡れた表面が鈍い光を反射する。シャワーの雨を弾きながら、その熱は解放の時を待ち望むように、むくむくと体積を増していく。  チッと舌打ちをして、慎はそれを掴んで乱暴に(しご)いた。壁や床に打ち付けるシャワーの音に混じる、リズムを刻むような水音と、喉の奥から漏れる呼吸音は、次第に激しさを増していった。  慎は再びまぶたを閉じた。自分を見つめる庸介の眼や、体の温もり、唇の弾力を思い起こしながら――
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