*02 父の腕に

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 * * *  会社の最寄り駅前には、深夜まで営業しているスポーツジムがある。時間を持て余した慎は、そこに寄り道をしてから帰宅することにした。  日々の仕事で溜まったストレスや運動不足を解消するには、黙々と体を動かすのが丁度いい。時間と体力が許す日は、ジムで汗を流してリフレッシュすることにしているのだ。しかし―― 「営業停止?」 「ええ。会員様には誠に申し訳ないのですが……」  ジムの出入り口に立っていた係員に止められ、何事かと思えば、その口から出てきたのは『建物の一部が破損し、改修工事のため一ヶ月以上の営業停止』という言葉だった。 「天井でも落ちたんですか?」 「えーっと、細かい事情はお伝えできないのですが……ともかく、他の区にある系列店をご利用いただくか、休会手続きを取っていただくことになります」 「はあ……」  ペコペコと頭を下げられながら、店舗の奥へと目をやる。確かに、設備は綺麗でも、建物自体はかなり古かったような覚えがある。仕事帰りに立ち寄るのに好都合な場所にあった為、多少のボロさは気にしていなかったのだが。  慎は不完全燃焼な気分のまま、スポーツジムを後にした。  発散しそこなったストレスがモヤモヤと頭の上に雲を作っている。  ――いっそここから二駅くらい、走ってみるか?  そんなことを考えながら、歩道の片隅で屈伸運動をしていると、鞄の中でスマホの着信音が鳴った。  煌々(こうこう)と光る画面には、庸介の名が浮かんでいた。
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