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一方で、それは奇妙な話だとも思う。父恋しさと性的欲求が、なぜ心の中で結びついてしまうのか。
慎は自分でも時々、自分自身のことがよくわからなくなる。しかし確かに、慎の心を満たしてくれるのは父という存在であり、男という性だけなのだ。
庸介の背にしがみついて後頭部に額を擦り寄せていると、腕の下がもぞもぞと動いた。強く抱きすぎて、眠りを妨げてしまったようだ。
庸介は目を擦りながら体を反転させ、慎と向かい合った。
枕元の目覚まし時計の針は、まだ夜明け前を指している。こんな早い時間に起こしてしまったというのに、庸介は機嫌を損ねるでもなく、寝ぼけ眼で微笑んだ。
「どうしたの?」
「……なんでもない」
そう答える慎を、庸介は黙って抱き寄せた。
窓の外から、新聞配達をしているバイクの音が聞こえる。静かな朝の気配に耳を澄ませながら、庸介の胸に寄り添い、慎はぽつりと言った。
「夢、見た」
「何の夢?」
「……遊園地に行った夢」
父親の夢――と言おうとしたが、なんとなく気恥ずかしくなり、やめた。
慎はもじもじと顔を伏せていたが、庸介の方は『遊園地』と聞いてぱっと表情を明るくした。
「昨日、遊園地のこと話したからかな」
「かもね」
「慎君、やっぱり今度二人で遊園地に遊びに行こうよ。オレ、土曜日に休み入れるからさ」
「……いいよ」
「やった!」
庸介は嬉しそうに微笑むと、慎の唇に柔らかいキスを落とした。
起きて身支度するのには、まだ早い時間だ。ベッドの中で身を寄せ合い、うだうだと穏やかな時間を過ごす。そうこうしているうちに二度寝してしまった。
寝坊しかけた二人が、慌てて玄関を飛び出ることになるのは、もうしばらく経ってからのことだ。
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