*02 父の腕に

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 一方で、それは奇妙な話だとも思う。父恋しさと性的欲求が、なぜ心の中で結びついてしまうのか。  慎は自分でも時々、自分自身のことがよくわからなくなる。しかし確かに、慎の心を満たしてくれるのは父という存在であり、男という性だけなのだ。  庸介の背にしがみついて後頭部に額を擦り寄せていると、腕の下がもぞもぞと動いた。強く抱きすぎて、眠りを妨げてしまったようだ。  庸介は目を擦りながら体を反転させ、慎と向かい合った。  枕元の目覚まし時計の針は、まだ夜明け前を指している。こんな早い時間に起こしてしまったというのに、庸介は機嫌を損ねるでもなく、寝ぼけ(まなこ)で微笑んだ。 「どうしたの?」 「……なんでもない」  そう答える慎を、庸介は黙って抱き寄せた。  窓の外から、新聞配達をしているバイクの音が聞こえる。静かな朝の気配に耳を澄ませながら、庸介の胸に寄り添い、慎はぽつりと言った。 「夢、見た」 「何の夢?」 「……遊園地に行った夢」  父親の夢――と言おうとしたが、なんとなく気恥ずかしくなり、やめた。  慎はもじもじと顔を伏せていたが、庸介の方は『遊園地』と聞いてぱっと表情を明るくした。 「昨日、遊園地のこと話したからかな」 「かもね」 「慎君、やっぱり今度二人で遊園地に遊びに行こうよ。オレ、土曜日に休み入れるからさ」 「……いいよ」 「やった!」  庸介は嬉しそうに微笑むと、慎の唇に柔らかいキスを落とした。  起きて身支度するのには、まだ早い時間だ。ベッドの中で身を寄せ合い、うだうだと穏やかな時間を過ごす。そうこうしているうちに二度寝してしまった。  寝坊しかけた二人が、慌てて玄関を飛び出ることになるのは、もうしばらく経ってからのことだ。
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