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「あー、やっぱりそうなんだ。我ながらすごい洞察眼」
「……」
「慎ちゃん、昔はあんまり遊ばないタイプだったのに。真面目な交際はもう諦めちゃってるワケ?」
「いいだろ別に……色々あるんだよ」
「へー、あっそ。じゃ、僕にもサクッと遊びのチューしてくれないかなぁ」
そう言って、ユウタは目を閉じ、わざとらしく口を尖らせる。
ユウタは昔から、慎をからかうような冗談が好きなのだ。
まったく、いい趣味をしている――慎は口の中で小さく舌打ちをしてから、周囲をキョロキョロと見渡し、素早くユウタの頬にチュッとキスを落とした。
すると、自分からキスを求めたにもかかわらず、ユウタは大げさな程後ろに仰け反り、目を丸くした。唇のすぐ横のあたりを押さえて、慎を見つめるその顔が、ぶわっと赤く上気する。
「ちょっ……な、何ホントにしちゃってんの?!」
「えっ、だってユウタが――」
「冗談に決まってんじゃん! 冗談!」
ユウタは怒ったような表情で、早足で歩き出した。それを慌てて追いかけ、隣りに並ぶ。
額に汗を浮かべる慎の方を見もせずに、ユウタはぶつぶつとぼやきだす。
「なーんか調子狂うなあ」
「ご、ごめん」
「すっかり遊び人気取っちゃって、似合ってないっつーのよ。慎ちゃんは根が真面目なんだからさ!」
どうやら慎のリアクションは、ユウタが求めていたものとは違ったらしい。慎は急に恥ずかしい気分になり、肩を落とした。
――遊び人、か。
ぼんやりと、ユウタの言ったその言葉を頭の中で反芻した。
いっそ自分は、始めから薄情で尻の軽い人間だったんだと、開き直ってしまえたら楽なのかもしれない。
これからの人生についても、あれからずっと続いている、庸介との曖昧な関係についても――
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