00 プロローグ

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 00 プロローグ

 その視線に気付いた時、(しん)は週末の最終電車の中にいた。  東京都心部に張り巡らされた地下鉄の車内は、深夜になってもそこそこ混雑している。運良く座ることのできた座席に深くもたれ掛かり、慎はさりげなく、その突き刺すような視線の送り主の姿を探した。  つり革にぐったりとぶら下がるビジネスマンの革靴。OLのハイヒール。その向こうにある、白いスニーカー。ジーンズとの隙間に、きゅっと引き締まった足首が覗いている。  ゆっくりと視線を上げていくと、ちょうど真正面の座席に座っている男と目が合った。その瞬間、慎は絡み合う視線の間で、バチッと火花が飛び散るような錯覚を覚えた。  小麦色の肌、堀の深い顔立ち、短く刈り上げた茶髪に、顎髭(あごひげ)。野性的で雄々しいルックスだが、ぱっちりとした大きな目だけが、少し幼い印象に映る。そんなアンバランスな妖しい魅力を持った男が、じっと慎を見つめている。  思わずゴクリと唾を飲み込み、硬直した。  対抗するように見つめ返してはみたが、何秒経っても、何十秒経っても、男は視線を外そうとしない。先に根負けしたのは慎の方だった。
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