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*02 父の腕に
『友達になろう』
そんな言葉を交わした夜から数週間。慎は何度か庸介と連絡を取り合い、共に時間を過ごした。
といっても、土日祝日休みの慎と、サービス業の庸介とでは休日が合わない。仕事帰りに待ち合わせ、お互いの家の近くの居酒屋で、小一時間ほど酒を飲んで解散する――そんなごく浅い付き合いを重ねる以外には、何もなかった。
それでも、ほとんど会社と家とを往復するか、スポーツジムやゲイバーに通うだけの日々を過ごしていた慎にとって、庸介は単調な日常に小さな刺激をもたらすスパイスのような存在となっていった。
今日も残業を終え、会社のエントランスを出る。
初夏の湿度を帯びた初夏の風を感じながら、慎は夜空に向かって思い切り伸びをした。伸びたついでに肩をぐるぐる回すと、デスクワークで凝り固まった肩や首の筋肉が軋んだ。
ちらりと腕時計を見て、それからスマホを取り出す。今日は誰からも、飲みの誘いは無い。
少々肩を落としてから、慎は気付いた。誰かが側にいないことが寂しいだなんて、そんな感覚は久しく感じていなかったということに。
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