その背を照らす夕陽は赤く

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  やがて数年の月日が流れた堤防の道―――  小学生も高学年となると、ランドセルが小さく見える。  たんぽぽの綿毛が舞う、春の夕陽の中、男の子はサッカーボールを左手に抱え、四人の男友達とふざけ合いながら歩いていた。一人の友達が立ち止まって男の子を振り向き、男の子が抱えるボールを指差して何かを告げる。  男の子は笑顔を見せ、友達が見ている前でリフティングを始めた。  三回、五回、八回と小さく蹴り上げられるサッカーボール。しかし十回目、それまでより高く上げてしまったボールを見た一瞬、工場街に沈む夕陽の光が目に入って、視覚を奪われた男の子は、ボールを爪先で受け損なった。  土手を転がり落ちるサッカーボールを、男の子は友達と慌てて拾いに行く。河にはまったら大変だ。石ころだらけの河原で跳ね上がったところを、ようやく追いついてキャッチ、そのままふざけて、河原で小突き合いになる男の子達。  するとそこに、堤防の道をやって来たのはあの女の子だった。男の子と同じく高学年になった女の子は、三人の女友達と一緒に歩いている。  河原にいた男の子がそれに気づいてふざけ合いの手を止め、堤防の上を見上げると、女の子も立ち止まって河原の男の子を見る。二人とも無言だ。その直後、男の子の近くにいた友達が、女の子を横目で見ながら男の子に何かを耳打ちした。  その言葉に、夕陽の色に負けないぐらい顔を赤くした男の子は、咄嗟に女の子に向かって顔をしかめ、舌を出した。それを見て女の子は小馬鹿にされたと思ったらしく、男の子をひと睨みするとプイッ!…と顔を背け、友達を促して足早に帰って行く。  気まずい思いで、小さくなってゆく女の子の、後ろ姿を見送る男の子の背中に、赤い夕陽が暑かった………  
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